アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.の玄関口であるユニオンステーション(Union Station)は、アムトラック(Amtrak)、MARC、VRE、ワシントンメトロ、高速バスなどが発着する全米屈指の鉄道ターミナル駅として有名です。また、築100年以上の格調高い駅舎はワシントンD.C.を訪れる観光客にも非常に人気で、同駅を訪れる人は年間約3,700万人(パンデミック前)にもおよびます。そんなユニオンステーションは、同駅に本社を置くアムトラックにとってもニューヨーク・ペンステーションに次ぐ重要拠点となっており、2012年に20年後の将来を見据えた大規模再開発のための「セカンドセンチュリー・マスタープラン(2nd Century Master Plan)」を発表しています。

セカンドセンチュリー・マスタープランの概要
セカンドセンチュリー・マスタープランの全体像
Image: shalom baranes associates architects

マスタープランは、2040年にかけた利用者の増加に対応するため、現状と比較して駅のキャパシティを3倍、列車の発着可能本数を2倍にし、交通ハブとしての機能強化をはかることを目指しています。ただ、これらの目標を達成するためにはプロジェクト全体で100億ドル(1兆2,800億円)以上とも見積もられている巨額の資金、複雑な地権者との利権関係などの調整が必要となるため、数段階に分けた長期的な整備が実施されることとなっています。以下は、マスタープランに関連するプロジェクト一覧(2022年4月時点)です。

プロジェクト名内容完成予定実施主体
メインホール
復元プロジェクト

Main Hall Granite Masonry Restoration Project
・歴史的建造物の保存、修復、美装化2022年USRC*
ユニオンステーション
コンコース近代化プロジェクト
Union Station Concourse Modernization Project
・コンコースの改修・拡張
・メトロポリタンラウンジの新設
・トイレ改修
・1stストリートエントランスの新設**
2026年Amtrak
Hストリートブリッジ
架け替えプロジェクト
H Street Bridge NE Replacement
・Hストリートブリッジの架替え
・ストリートカーの駅移動
2028年DDOT***
ユニオンステーション
拡張プロジェクト
Union Station Expansion Project
・新コンコースの建設
・新エントランスの建設
・ホーム拡張
・サービス設備の拡張
着工から11〜14年後
※現在EISを実施中
USRC*
Amtrak
バーンハムプレイス
プロジェクト
Burnham Place Project
・再開発複合ビルの建設
未定
※拡張プロジェクトと同時進行で実施
Akridge
*Union Station Redevelopment Corporation
**ワシントンメトロ(WMATA)が実施主体
***District Department of Transportation

Source: Concourse ModernizationDDOTUSRCAkridge

マスタープランの完成イメージ(実際の計画は大幅に変更される可能性があります)
セントラルコンコース内部
セントラルコンコースのイメージ
Image: Union Station Master Plan

2012年に公表されたマスタープランでは、駅舎の中央に「セントラルコンコース」と呼ばれるシンボリックな三層吹き抜け空間が誕生する予定となっています。

Image: Union Station Master Plan

非常に開放的な造りでヨーロッパの鉄道ターミナル駅や国際空港をイメージさせる空間となっています。

Image: Union Station Master Plan

ホームを上から見た様子です。ガラス張りで波打つ大屋根の下にアセラの車両が描かれています。このように上から列車を眺めることができる構造の駅といえば、日本ではJR大阪駅や高輪ゲートウェイ駅を連想させます。

セントラルコンコース外観
Image: Union Station Master Plan

セントラルコンコースへのメインエントランスイメージです。ガラス張りで透明感のある外観が新時代を感じさせます。

Image: Akridge and shalom baranes associates architects

別の角度からみたメインエントランスのイメージです。

1stストリートエントランスのイメージ
Image: Akridge and shalom baranes associates architects

こちらは1stストリート側エントランスの整備イメージです。

駅周辺再開発(バーンハムプレイス
Image: Akridge and shalom baranes associates architects

駅周辺では、バーンハムプレイスプロジェクトと呼ばれる大規模な公共交通指向型開発(Transit-oriented development: TOD)も計画されています。

1st ストリートからみたバーンハムプレイスのイメージ
Image: Union Station Master Plan

バーンハムプレイスは、ユニオンステーションの空間地上権(Air Rights)を有するAkridgeが実施主体の再開発計画で、駅や留置線の上にオフィス、ホテル、物販、住居などから構成される複合ビル(延床面積28万平方メートル以上)を建設する予定です。

Image: Akridge and shalom baranes associates architects

Hストリートから見たユニオンステーションと再開発ビルのイメージです。駅周辺は歩行者を中心とした動線が描かれています。

Image: Akridge and shalom baranes associates architects

ユニオンステーションのホーム上に建設されるバーンハムプレイスは、架け替えられるHストリートブリッジと同じ高さで接続されます。

マスタープランの進捗状況と今後の予定
2020年6月にユニオンステーション拡張プロジェクトの準備書が公表

マスタープランの核となるユニオンステーション拡張プロジェクトの環境アセスメントは、2020年6月に準備書(DEIS)が公表され推奨整備案が示されました。

推奨案の全体図
Image: National Capital Planning Commission

DEISで示された推奨案では、バスターミナルや駐車場を当初想定していた地下ではなく地上に建設し、セントラルコンコース上にも再開発ビルが建設される案が採用されています。そのため、残念ながらインパクトの強かったホーム上を覆うガラスの大屋根はなくなっています。その代わりに、自然光を一部取り入れる仕組みを考えているようです。

推奨案のプラットホーム階見取り図
Image: National Capital Planning Commission

こちらはホーム階の見取り図です。ワシントンD.C.から南方面へ直通するホーム4本の改修、ユニオンステーションを起点とする北東回廊方面への列車が使用する頭端式ホームが6本新設される予定です。2012年のマスタープランでは、頭端式ホームの下にさらに別のホーム階の設置も検討されていましたが、推奨案では示されていません。なお、セントラルコンコースの三層吹き抜け構造は規模が縮小されながらもかろうじて残るようです。

推奨案の地下コンコース階の見取り図
Image: National Capital Planning Commission

地下コンコース階の見取り図です。Hストリートの下にも新たなコンコースが建設されます。また、コンコースAとHストリートコンコースはセントラルコンコースと1stストリートコンコースで結ばれます。

推奨案の駅断面図
Image: National Capital Planning Commission

ユニオンステーションの断面図です。マスタープランでガラスの大屋根となっていた部分は、バスターミナルと駐車場に変更になっています。また、空間地上権を活用したバーンハムプレイスの再開発ビルは、セントラルコンコースの上に覆い被さる形となっています。

推奨案の駅断面図
Image: National Capital Planning Commission

Hストリートの南側の断面図です。現在のクレイターコンコース(Claytor Concourse)は新たなトレインホールとして整備される予定です。この新トレインホールのデザイン次第では、外光を多く取り入れたインパクトのある駅舎となる可能性はありそうです。

今後の予定
拡張プロジェクトの環境アセスメントスケジュール
Image: FRA

最終的なユニオンステーションの拡張方法については、評価書(FEIS)が公表されたあとに決定(Record of Decision)されます。しかし、貴重な駅上空スペースの大部分を駐車場やバスターミナルとして使用する準備書(DEIS)の推奨案には予想以上に反対意見が多く、現在、評価書(FEIS)の作成作業が一時中断されている状況です。また、その他の関連プロジェクトについては、2023年にようやくHストリートブリッジの架け替え工事やコンコース近代化プロジェクトが着工される予定となっています。そのため、プロジェクト全体の大幅な遅れは避けられず、当初完成時期は2028年が一つの目標とされていましたが、現在は2040年ごろと予想されています。

このようにマスタープラン公表時からスケジュールの遅れが目立っていますが、今後も利用者の大幅な増加が予想されるユニオンステーションの大改造は待ったなしの状態であるため、水面下では計画が進行していると思われます。そのことを裏付けるかのように、アムトラックの2023年度予算要求(FY 2023 Grant Request)においても、少額ではありますがユニオンステーション再開発計画が含まれています。今後、最終的な整備方法は大きく変わる可能性がありますが、大きく変わろうとしている未来のユニオンステーションに今後も注目していきます。

※1米ドル=128円で計算

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。