2021年5月に設立50周年を迎えたアメリカの旅客鉄道公社「アムトラック（Amtrak）」は、2035年に向けた15年ビジョンを示したコネクトUS（Connects US）を公表しました。コネクトUSには39の新設ルートの開設や25の既存ルートの増発などの計画が含まれており、それらを実行するために今後15年間で総額750億ドル（約8.5兆円）にのぼる連邦政府からの資金援助が必要になるとしています。アムトラックの15年ビジョンとして示されている内容は以下のとおりです。
- 全米525以上の地域で運行されている列車を維持しつつ、新たに大小160の地域にも列車を運行
- 人口数上位50位までの都市圏をターゲットにインターシティ列車を運行
- 米国本土48州のうち47州で旅客列車を運行し、既存の20州で提供されている回廊旅客列車サービス（Corridor Passenger Rail Service）の拡大、新たに16州で回廊旅客列車サービスを開始
- 39の新設ルートを開設、既存25ルートの運行区間延長、増発、速達化などを実施
- 半数以上の州で新駅設置を計画
- サービス拡大および改善によって年間2,000万人（2019年度*）以上の利用者の利便性向上（将来的に現在の2倍の利用者を見込む）
- 2019年度比*で8億ドル（約900億円）の収益成長を達成
*アムトラックの年度は9月から始まります。
アムトラックはこれらを達成することで、温室効果ガスの削減、エネルギー効率の向上、経済成長の促進、26,000人規模の正規雇用創出、車離れが進む若者世代の需要獲得、交通事故の削減などに貢献するとしています。
コネクトUS計画
コネクトUSでは、上のマップに示されている39の新設ルートを開設し、既存25ルートについても運行区間延長、増発、速達性向上などを実施することを柱としています。新設ルートの中には、これまでアムトラックの運行が全くなかったアリゾナ州フェニックス（Phoenix）や、ラスベガス（Las Vegas）なども含まれています。また、ジョージア州アトランタ（Atlanta）やテキサス州ヒューストン（Houston）など、アムトラックの運行が深夜や早朝に限られていた都市においても、日中時間帯に近隣都市間を運行するインターシティ列車の新設が計画され、利用者の増加を見込んでいます。
今回は、アムトラックが南東回廊（Southeastern Corridor）と位置づけるネットワークのうち、ジョージア州アトランタを中心とした新設インターシティネットワークについて見ていきます。
アトランタ・ハブ
ジョージア州アトランタはアメリカ南部を代表する都市、かつ全米第９位の都市圏人口を持つ都市となっています。しかしながら、現在アトランタを発着するアムトラックの列車は、ニューヨークとニューオーリンズを結ぶ「クレセント（Crescent）」一往復のみとなっています。コネクトUSでは、急成長を遂げているアトランタ都市圏と周辺都市圏を結ぶインターシティ列車を新設するため、アトランタを南部のハブと位置付ける計画です。
クレセント号についてはこちらから。
アトランタ・シャーロット（Charlotte – Atlanta）
現在、アトランタ〜シャーロット間には、ニューヨークからクレセント号が一往復運行されていますが、ニューオーリンズ方面は早朝、ニューヨーク方面は深夜の時間帯に同区間を通る時刻設定となっているため、インターシティ列車としての役割はありません。コネクトUSでは、同区間を走る新たなインターシティ列車を１日３往復設定する計画です。したがって、同区間には既存のクレセントと合わせて４往復の列車が設定されることとなります。また、アトランタ近郊に１駅の新設計画もあります。
なお、アトランタ〜シャーロット間のインターシティ列車計画についてはこちらもご覧ください。
| 運行区間 | 本数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| アトランタ〜シャーロット〜（ローリー）* Atlanta- Charlotte – （Raleigh） | 1→4往復** | 5時間00分 |
**１往復はクレセント
アトランタ・ナッシュビル（Atlanta – Nashville）
現在、テネシー州の州都ナッシュビルを発着するインターシティ列車は設定されていません。ナッシュビル都市圏の人口はおよそ200万人で全米36位となっており、アムトラックの運行が全くない都市圏としては３番目の人口規模を誇ります。コネクトUSでは、アトランタからチャタヌーガ（Chattanooga）を通りナッシュビルまで運行する列車を２往復新設する計画です。このルートには、ナッシュビルおよびチャタヌーガを含め９駅が新設されます。
| 運行区間 | 本数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| アトランタ〜チャタヌーガ〜ナッシュビル Atlanta – Chattanooga – Nashville | 0→2往復 | 6時間34分 |
アトランタ・モンゴメリー（Atlanta – Montgomery）
アラバマ州の州都モンゴメリーは、人口およそ20万人で同州第二の都市です。モンゴメリーもインターシティ列車の設定がない都市の一つとなっています。コネクトUSでは、アトランタからモンゴメリーまで運行する列車を３往復新設する計画です。このルートでは、モンゴメリーを含めて５駅が新線される計画です。
| 運行区間 | 本数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| アトランタ〜モンゴメリー Atlanta – Montgomery | 0→3往復 | 3時間20分 |
アトランタ・サバンナ（Atlanta – Savannah）
ジョージア州サバンナ（Savannah）は、サウスカロライナ州チャールストンと並んで歴史的な町並みや建築物を再生・保存した観光都市として有名です。現在、サバンナとアトランタを結ぶ列車の設定はありませんが、サバンナにはニューヨークからの「パルメット（Palmetto）」および「シルバーサービス（Silver Service）」が運行されています。コネクトUSでは、アトランタからサバンナを結ぶ列車を３往復新設し、アトランタではクレセント、サバンナではパルメット、シルバーサービスと接続する計画です。なお、同ルートでは、７駅の新設が計画されています。
| 運行区間 | 本数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| アトランタ〜メイコン〜サバンナ Atlanta – Macon – Savannah | 0→3往復 | 5時間40分 |
アトランタ・バーミングハム（Atlanta – Birmingham）
バーミングハムはアラバマ州最大の都市で、都市圏人口はおよそ120万人で全米47位となっています。バーミングハムにはクレセントが停車しますが、アトランタ同様、インターシティ列車としての位置付けはありません。コネクトUSでは、アトランタからバーミングハムまで運行する列車を１往復新設する計画です。また、アトランタ〜バーミングハム間には１駅が新設される計画です。
| 運行区間 | 本数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| アトランタ〜バーミングハム Atlanta – Birmingham | 1→2往復* | 4時間10分 |
使用される車両はどうなる？
アトランタ・ハブ計画の実現には、新たにアトランタ近郊に車両基地などを設ける必要もあると予想されますが、具体的にどのような車両が配置されるのかなどの情報は今のところありません。ただ、ニューヨークからシャーロットまで運行するカロリニアンには「シーメンス・ベンチャー（Siemens Venture）」の導入計画があるので、アトランタに配置されるベンチャーが登場する可能性はありそうです。
Source: Amtrak
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