アメリカ初の民間高速鉄道となるブライトラインとは?

フロリダ州マイアミ(Miami)からウェストパームビーチ(West Palm Beach)を結ぶブライトライン(Brightline)は、2018年に運行開始した民間運営によるインターシティ鉄道路線です。アメリカには過去に多くの民間旅客鉄道が存在していましたが、人の流れが航空機や車へ移行し続けた結果、1983年を最後に民間旅客鉄道は姿を消してしまいました。そのためブライトラインの開業は、実に35年振りのアメリカにおける民間旅客鉄道の復活ということになります。

現在ブライトラインでは、2022年末の完成に向けてウェストパームビーチ〜オーランド(Orlando)間の延伸工事を実施しています。延伸区間が完成すると一部区間で時速201kmでの高速運転が実施される予定で、民間運営による高速鉄道としてはアメリカ初の事例となります。

※パンデミックの影響で長らく運休していましたが、2021年11月8日から運行を再開しました!

※ディズニー・スプリングス駅の計画が変更になりました。

ブライトラインのルート
Image: Brightline

ブライトラインは、2018年にまずフォート・ローダデール(Fort Lauderdale)駅〜ウェストパームビーチ駅間で運行を開始し、その後、マイアミセントラル(Miami Central)駅までが開通しました。同区間は、貨物鉄道であるフロリダ東海岸鉄道(Florida East Coast Railway: FEC)の線路を複線化し、駅などの旅客設備を新たに建設する形で開業しました。なお、フェーズ1区間での最高速度は時速127kmとなっています。

Image: High Speed Rail Alliance

現在、フェーズ2の区間であるウェストパームビーチ〜オーランド国際空港間の建設が、2022年末の開業を目指して進められています。同区間のうちウェストパームビーチ〜ココア(Cocoa)間は、フェーズ1同様フロリダ東海岸鉄道を複線化(最高時速177km対応)する形で建設されています。ココア〜オーランド国際空港(Oraland International Airport)間は新線で建設されており、最高時速201kmに対応する予定です。フェーズ2の開業により、マイアミ〜オーランド間(総延長は約390km)が約3時間で結ばれ、年間300万人以上の利用者を見込んでいます。

Image: High Speed Rail Alliance

さらにフェーズ3として、オーランド国際空港からウォルトディズニーワールド(Walt Disney World)を経由してタンパ(Tampa)まで延伸する計画も進行中です。フェーズ3は全線新線で建設され最高時速201km対応となる予定です。

先行開業区間の駅
マイアミセントラル駅
Image: SOM

ブライトラインのマイアミセントラル駅は、メトロレール(Miami-Dade Transit: Metrorail)およびメトロムーバー(Miami-Dade Transit: Metromover)のガバメント・センター(Government Center)駅を接続するトランスポーテーションハブとして建設されました。また、駅の建設に合わせて高層住宅やオフィスビルも建設され、大規模な開発が行われています。

Image: SOM

現在マイアミセントラル駅では、マイアミ国際空港とウェストパームビーチを結ぶ通勤鉄道「トライレール(Tri-Rail)」の乗り入れ工事が行われており、2022年に開通予定となっています。

Image: Tri Rail

トライレールのホームはブライトラインの横に建設されます。

フォート・ローダデール

フォート・ローダデール駅は、フォート・ローダデールのダウンタウンに位置しており、マイアミセントラル駅からの所要時間はおよそ30分です。なお、アムトラックやトライレールのフォート・ローダデール駅からは離れた場所にあるため乗り換えはできません。

Image: SOM
ウェストパームビーチ駅
Image: SOM

ウェストパームビーチ駅は、ウェストパームビーチのダウンタウンに位置しています。アムトラックおよびトライレールの駅からは徒歩10分ほどの距離にあります。マイアミセントラル駅からの所要時間は1時間となります。

建設中の駅
アベンチュラ駅
Image: Aventura Magazine

アベンチュラ(Aventura)駅は、マイアミセントラル駅とフォート・ローダデール駅の間、アベンチュラモール(Aventura Mall)の西側に設置される駅で、2021年秋に開業する予定です。マイアミセントラル駅からの所要時間はおよそ15分です。

オーランド国際空港
Image: High Speed Rail Alliance

オーランド国際空港駅は、現在建設中のフェーズ2の終点となる駅で2022年末に開業予定です。マイアミからの所要時間は3時間となります。なお、新たに建設中の新ターミナルへは直結、空港ターミナルAおよびBへは新交通システムを利用してアクセスすることができるようになります。

計画中の駅
マイアミポート

マイアミポート(Miami Port)駅は、多くのクルーズ船が出港するマイアミ港の玄関口となります。マイアミポート駅の開業で、マイアミ国際空港やオーランド国際空港、さらにはディズニーワールドからマイアミ港のクルーズ船ターミナルへ車なしでアクセスできるようになり、フロリダ観光の起爆剤となることが期待されています。パンデミックの影響で着工が遅れていますが、2022年の開業を目指しているようです。

ボカラトン
Image: THE NEXT MIAMI

ボカラトン(Boca Raton)駅はフォート・ローダデール駅〜パームビーチ駅の間に設置される駅で、すでに駐車場などの駅周辺施設は建設中となっています。駅本体は2021年秋頃を目処に着工する予定です。開業は2022年を予定しています。

ディスニー・スプリングス
Image: Brightline

ディズニー・スプリングス(Disney Springs)駅は、ウォルトディスニーワールドリゾート内にあるショッピングモールです。ここからアメリカのみならず世界中のディズニーファンが訪れる各テーマパークへのシャトルバスや水上バスが運行されています。ディズニー・スプリングス駅の建設に当たっては、すでにディズニーとの間で駅設置に関する合意がなされており、2022年に着工し2026年の開業を目指しています。

タンパ駅

タンパ駅はブライトラインの終点になる駅です。ブライトラインのフェーズ3の区間になりますが、大きな需要の見込めるオーランド国際空港駅〜ディズニー・スプリングス駅まで区間を優先して着工する予定です。そのため、タンパまでの開業はディズニー・スプリングス駅の開業後となる予定です。

使用車両
Image: Siemens

ブライトラインは全線非電化となっています。車両はシーメンス・モービリティ(Siemens Mobility)がアメリカ市場向けに開発した客車「ベンチャー(Venture)」をディーゼル・エレクトリック方式の機関車「チャージャー(Siemens Charger SCB-40)」が牽引する方式の編成が合計5編成導入されました。

Image: Brightline

客車はセレクト(Select)と呼ばれるファーストクラスが1両、スマート(Smart)と呼ばれるビジネスクラスが3両の4両編成で運行されています。なお、オーランドまでの延伸開業に合わせて既存編成の客車7両化が実施され、新造編成5編成も導入される予定となっています。

運行ダイヤ

運行ダイヤは平日1日17往復(終日ほぼ1時間間隔)、土曜日10往復(1〜2時間間隔)、日曜日8往復(1〜2時間間隔)となっています。

MaaSへの対応

ブライトラインでは、2021年11月の運行再開と同時に、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に対応したアプリが利用できるようになる予定です。このアプリには、スペインのバルセロナに拠点を置くソフトウェア企業「Ioモブ・テクノロジーズ(Iomob Technologies OU)」のレールMaaS(RailMaaS)と呼ばれるシステムが採用されています。ブライトラインの駅から目的地までのラストマイルモビリティまでの予約、支払いを一つのアプリで完了できるようになます。

利用者は出発地点から最終目的地までの公共交通機関オプションを確認できるようになります。

また、支払いもブライトラインのアプリ上で完結できるようになります。

ブライトラインの建設に至るまでの経緯
過去に日本の新幹線システム導入も検討

フロリダの高速鉄道建設にあたっては、過去にJR東海を中心とした日本企業連合が新幹線システムの導入を検討していた時期がありました。しかしながら、リーマンショックの財政難と膨大な建設費の負担が納税者に重くのしかかることを嫌がった当時のフロリダ州知事が、連邦予算の受け入れを拒否したことで、計画が頓挫してしまいました。

民間資金と既存路線を活用する案に変更

その後、アメリカの投資会社でフォートレス・インベストメント・グループ(Fortress Investment Group LLC)傘下の、フロリダ・イーストコースト・インダストリーズ(Florida East Coast Industries: FECI)がインターシティ列車の運行を行うオール・アボード・フロリダ(All Aboard Florida)を設立しました。同社は、既存鉄道路線を最大限活用、新設区間の最高速度を時速約200km程度に抑えコストを下げることで、長期にわたって前進しなかったフロリダ高速鉄道の着工に漕ぎ着けることができました。なお、フォートレスの株はソフトバンクグループが100%保有していますが、業務関与は制限されているようです。

英ヴァージン・グループとの提携

2018年にブライトラインは、英ヴァージン・グループとの間で戦略的提携を行うと発表しました。そのため同路線は、ヴァージン・トレインズ・USA(Virgin Trains USA)と名乗っていた時期がありました。しかし、ヴァージンのブライトラインへの出資額で折り合いが合わなかったようで、現在両社の提携関係は解消されています。

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