建設が進むカリフォルニア高速鉄道ネットワーク(概要編)

更新日: 2023年5月3日

全米一の人口を抱えるカリフォルニア州では、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、サクラメントなど、州内の主要都市を最高時速320km以上の高速鉄道で結ぶ「カリフォルニア高速鉄道(California High-Speed Rail: CAHSR)」プロジェクトが進行中です。同プロジェクトはカリフォルニア州高速鉄道局(California High-Speed Rail Authority: CHSRA)が中心となって進められているもので、2008年には、最重要区間であるサンフランシスコ〜ロサンゼルス/アナハイム間の建設費の一部に州の税金を投じることを問う住民投票「Proposition 1A」が承認されました。

以降、幾度となく着工延期、計画変更、規模縮小などが繰り返されてきたCAHSRプロジェクトですが、現在、一部区間では着々と建設工事が進められています。今回は、そんなCAHSRプロジェクトについて調べてみたいと思います。第1回は、カリフォルニア高速鉄道プロジェクトの概要を見ていきます。

計画されている高速鉄道ネットワーク
フェーズごとの整備区間を示したCAHSRネットワーク(紺色がフェーズ1、黄色がフェーズ2)
Image: California High-Speed Rail Authority

建設費が莫大となることから、フェーズ1としてサンフランシスコ〜ロサンゼルス〜アナハイムを結ぶ520マイル(840km)の区間が整備され、その後フェーズ2として、サクラメントとサンディエゴへの延伸を予定しています。ちなみに、2022年時点での建設費予測では、フェーズ1のみで約870〜880億ドル(約10兆円)と見積もられています。

CAHSRが計画されているエリアには、カリフォルニア州内最大かつ全米第二位の都市圏をほこるロサンゼルス、IT企業の一大拠点として有名なシリコンバレーを有するサンフランシスコ・ベイエリア、カリフォルニアの州都であるサクラメント、州南部の主要都市サンディエゴなど、多くの大都市があります。CAHSRは、これらの都市を最高時速200〜220マイル(320〜350km)で走行可能な高速鉄道で結ぶ計画です。全区間で整備される駅は最大で24駅、総延長は約800マイル(約1,300km)となり、距離としては東海道・山陽新幹線の総延長(約1,200km)を超える高速鉄道ネットワークが構築されることになります。

フェーズ1
整備されるルート
Image: CAHSR

フェーズ1は、サンフランシスコ・ベイエリアから、セントラル・バレー(Central Valley)と呼ばれるカリフォルニア中央部の都市を経由してロサンゼルス、アナハイムへと向かう路線を指します。なお、フェーズ1のうち、ベイエリアではカルトレイン(Caltrain)、ロサンゼルス都市圏においてはメトロリンク(Metrolink)が通勤鉄道を運行している路線を電化・改良する形で整備されます。このため、これらの区間では通勤鉄道と軌道を共有することとなります。

最新の計画(2022年ビジネス計画案)では、マーセド(Merced)からベーカーズフィールド(Bakersfield)までの約171マイル(約275km)区間について、2030年ごろから旅客サービスが開始される予定となっています。この部分開業によって、同区間の所要時間が現状のアムトラックと比較して100分程度短縮される予定です。その後、2031年にマーセドからサンフランシスコまで延伸、2033年にベーカーズフィールドからロサンゼルス、さらにその先のアナハイムまで延伸し、フェーズ1の全区間が開業する予定となっています。

建設区間距離設計最高速度着工予定開業予定共用路線
サンフランシスコ〜サンノゼ
(San Francisco – San Jose)
69km180km/h2022以降*2031Caltrain
サンノゼ〜マーセド
(San Jose – Merced)
88km**
145km
180km/h**
350km/h
2022以降2031Caltrain**
マーセド〜フレズノ
(Merced – Fresno)
105km350km/h一部着工済***2030高速専用線
フレズノ〜ベーカーズフィールド
(Fresno – Bakersfield)
183km350km/h一部着工済***2030高速専用線
ベーカーズフィールド〜パームデール
(Bakersfield – Palmdale)
127km350km/h2023以降2033高速専用線
パームデール〜バーバンク
(Palmdale – Burbank)
66km350km/h2023以降2033高速専用線
バーバンク〜ロサンゼルス
(Burbank – Los Angeles)
21km200km/h2022以降2033Metrolink
BNSF
ロサンゼルス〜アナハイム
(Los Angeles – Anaheim)
50km200km/h2023以降2033Metrolink
BNSF
*Caltrainの電化工事は着工済み
**サンノゼ〜ギルロイ(Gilroy)
***2025年より高速運転試験が実施されるマデラ〜ポプラーアベニュー間(119マイル)のみ着工済

Source: 2018 Business Plan

整備予定の駅

フェーズ1で整備される予定の駅は以下の15駅(うち2駅はオプション、1駅は暫定駅)となります。なお、サンフランシスコの起点となる4th・キングストリート駅は、セールスフォース・トランジット・センターの地下駅が整備されるまでの暫定措置となります。

駅名
(仮称、斜字=オプション駅)
駅周辺の最大都市
(人口、人口密度)
接続路線
(斜字=計画路線)
開業
(予定)
セールスフォース・トランジット・センター
(Salesforce Transit Center: STC)
サンフランシスコ
(87万人、7,194人/km2
Caltrain
Muni、高速バス
未定
4th・タウンゼンド
(4th and Townsend)
サンフランシスコ
(87万人、7,194人/km2
Caltrain
Muni
未定
4th・キングストリート*
(4th and King Street)
サンフランシスコ
(87万人、7,194人/km2
Caltrain
Muni
2031
ミルブレー・SFO
(Millbrae-SFO)
サンマテオ郡
(76万人、658人/km2
Caltrain
BART
2031
サンノゼ・ディリドン
(San Jose Diridon)
サンノゼ
(100万人、2,195人/km2
Amtrak(CC)
Caltrain、ACE
2031
ギルロイ
(Gilroy)
ギルロイ
(5.7万人、1,381人/km2
Caltrain
TAMC
2031
マーセド
(Merced)
マーセド
(8.3万人、1,389人/km2
Amtrak(SJ)
ACE
2030
マデラ
(Madera)
マデラ
(6.5万人、1,544人/km2
2030
フレズノ
(Fresno)
フレズノ
(54万人、1,823人/km2
2030
キングス – トゥーレアリ
(Kings–Tulare)
ハンフォード
(5.8万人、1,280人/km2
2030
ベーカーズフィールド
(Bakersfield)
ベーカーズフィールド
(38万人、1,040人/km2
2030
パームデール
(Palmdale)
パームデール
(17万人、564人/km2
Metrolink
Brightline West
2033
バーバンク空港HSR
(Burbank Airport HSR)
バーバンク
(10万人、2,393人/km2
ボブ・ホープ空港2033
ロサンゼルス・ユニオン・ステーション
(Los Angeles Union Station)
ロサンゼルス
(397万人、3,206人/km2
Amtrak(PSL)
Metrolink、LA Metro
2033
ノーウォーク/サンタフェ・スプリングス
(Norwalk/Santa Fe Springs)
ノーウォーク
(11万人、4,135人/km2
Metrolink未定
フラートン
(Fullerton)
フラートン
(14万人、2,387人/km2
Amtrak(PSL)
Metrolink
未定
アナハイム・ARTIC
(Anaheim ARTIC)
アナハイム
(35万人、2,664人/km2
Amtrak(PSL)
Metrolink
2033
*STCが完成するまでの暫定駅となる予定
CC: キャピタルコリダー、CJ: サンホアキン、PSL: パシフィックサーフライナー
フェーズ2

フェーズ2では、サクラメント延伸(マーセド〜サクラメント間)とサンディエゴ延伸(ロサンゼルス〜サンディエゴ間)が予定されています。なお、フェーズ2はまだ環境アセスメントなどを実施する前段階のため、開業時期や詳細な建設ルートなどは確定していません。

サクラメント延伸
Image: CAHSR

サクラメント方面への延伸ルート(案)です。総延長は約115マイル(約185km)で、ストックトン(Stockton)やモデスト(Modesto)などの都市をとおるルートが想定されています。同区間では、以下の3駅が新設される予定です。

駅名
(仮称)
駅周辺の最大都市
(人口、人口密度)
モデスト
(Modesto)
モデスト
(22万人、1,933人/km2
ストックトン
(Stockton)
ストックトン
(32万人、1,942人/km2
サクラメント
(Sacramento)
サクラメント
(52万人、2,075人/km2
サンディエゴ延伸
Image: CAHSR

ロサンゼルスからサンディエゴまでの延伸区間は総延長約167マイル(約270km)とされています。途中、リバーサイド(Riverside)やサンバーナーディーノ(San Bernardino)といったカリフォルニア州南部の都市から形成されるインランド・エンパイア(Inland Empire)と呼ばれるエリアをとおるルートが想定されています。同区間では、オンタリオ国際空港、エスコンディード、サンディエゴ国際空港の3駅が建設される予定です。なお、それ以外にもエルモンテ(El Monte)、ウェストコビナ(West Covina)、ポモナ(Pomona)、サンバーナーディーノ、コロナ(Corona)、リバーサイド、マリエータ(Murrieta)付近において途中駅の設置が検討されています。

駅名
(仮称)
駅周辺の最大都市
(人口、人口密度)
オンタリオ国際空港
(Ontario International Airport)
オンタリオ
(19万人、1,429人/km2
エスコンディード・I-15
(Escondido I-15)
エスコンディード
(15万人、1,568人/km2
サンディエゴ国際空港
(San Diego International Airport)
サンディエゴ
(139万人、1,643人/km2

Source: CAHSR

主要都市間の所要時間

Proposition 1Aでは、CAHSRを整備するにあたって、各都市間のノンストップ列車の所要時間が以下を超えないように定めらています。このとおりの目標を達成できたとすると、サンフランシスコ〜ロサンゼルス間はノンストップ列車で約2時間40分で結ばれることとなり、これは、東京〜新神戸間の「のぞみ」と同じくらいの所要時間となります。

区間所要時間
(高速鉄道)
所要時間
(自動車)
所要時間
(Amtrak*)
サンフランシスコ〜ロサンゼルス2:406:119:35
サンフランシスコ〜サンノゼ0:300:562:15
サンノゼ〜ロサンゼルス2:105:299:00
サンディエゴ〜ロサンゼルス1:202:112:56
サクラメント〜ロサンゼルス2:206:068:09
*Amtrakの列車と連絡バス利用

Source: Official Voter Information Guide

運行パターン

2020年ビジネス計画によると、フェーズ1開業時には、サンフランシスコ〜ロサンゼルス間でピーク時間帯に毎時4本(うち1本はノンストップ列車)、オフピーク時間帯に毎時3本(うち1本はサンノゼ、バーバンク空港のみ停車)の運行が予定されているようです。これは、北東回廊のニューヨーク〜ワシントンD.C.間よりも多い本数となります。また、運行時間帯は朝6時から深夜0時までで、一日6時間の保守・点検時間が確保されます。

フェーズ1開業時の運行パターン
Image: 2018 Business Plan
運行区間ピークオフピーク
サンフランシスコ〜ロサンゼルス(最速達列車)1本*/時1本**/時
サンフランシスコ〜ロサンゼルス1本/時1本/時
サンフランシスコ〜ロサンゼルス〜アナハイム2本/時1本/時
サンノゼ〜ロサンゼルス2本/時0本/時
マーセド〜ロサンゼルス〜アナハイム2本/時1本/時
サンフランシスコ〜マーセド0.5本/時0.5本/時
サンノゼ〜マーセド0.5本/時0.5本/時
*ノンストップサービス
**サンノゼ、バーバンク空港のみ停車

Source: 2020 Business Plan

運行事業者はDBに決定

CHSRAは、2017年に初期段階のオペレーション事業者として、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG: DB)を中心として設立されたコンソーシアム「DB Engineering & Consulting USA」を選定しました。これにより、DBは、CAHSRのシステム設計、土木施設建設、車両などの調達、需要予測、運行計画などのコンサルティング業務を実施しています。なお、この選定プロセスの最終候補には、得点順にスペイン、イギリス、中国の鉄道事業者も入っていました。日本からは、JR東日本などが関心を示していましたが、採算性に疑問があるとのことで入札への参加は見送られました。

Source: IRJ

使用車両

2020年ビジネス計画によると、CAHSRの車両は1編成8両(定員450人以上)での運行を基本とし、多客期などは2編成を連結した16両編成での運行も想定しているようです。車両の調達先は今後入札によって決定される予定ですが、前述のとおり車両調達に関するコンサルティング業務は初期オペレーターとなるDBによって行われることとなっています。したがって、CAHSRの車両にはシーメンス製のヴェラロ(Velaro)が採用される可能性が高そうですがどうなるでしょうか。

2018年以降のCAHSRビジネス計画書に車両イメージとして記載されているシーメンスヴェラロ
Image: 2020 Business Plan
営業最高速度220mph(350km/h)
設計最高速度242mph(390km/h*)
編成両数8両編成**
編成長660フィート(201m)
座席数450席以上(ファースト、ビジネスの2クラス制を検討)
導入編成数〜2025年: 2編成(高速運転試験用)、〜2029年: 4編成、〜2033年: 66編成
*開業前の高速試験に対応した速度
**ラッシュ時などには8+8の16両編成での運行も想定

車両導入数は2025年までに高速運転試験用として2編成が導入され、2029年のセントラルバレー区間の部分開業時までに追加で4編成を増備する予定となっています。なお、フェーズ1全体が開業する2033年までに、72編成体制とする予定となっています。

Source: Basis of Design Policy Document, 2020 Business Plan, 2020 Capital Cost Basis of Estimate Report

※1ドル=115円で計算

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“建設が進むカリフォルニア高速鉄道ネットワーク(概要編)” への2件のフィードバック

  1. doranosikeのアバター
    doranosike

    震災対策は どうするのでしょうかね~

    1. DenshaDexのアバター

      地震対策としては、日本の新幹線が使用しているものと同等の早期地震検知警報システムの導入を想定しているようですよ。

      https://www.youtube.com/watch?v=7JGf-dts_y8

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