ニューヨークの鉄道路線の多くは、都心部であるマンハッタンから放射線状に広がっています。このため、ブルックリンやクイーンズといった人口が集中するエリア間の移動については、現状では地下鉄G系統しか整備されておらず、かねてからこの点がニューヨーク鉄道網の弱点とされてきました。この問題を解決するために、昨年からニューヨーク州のキャシー・ホークル(Kathy Hochul)知事が中心となって本格的な検討が開始されたプロジェクトが「インターボロー・エクスプレス(Interborough Express: IBX)」です。IBXが完成すると、ニューヨーク市外縁部のブルックリンやクイーンズにおいてマンハッタンから放射線状に広がる路線と相互に連絡できるようになり、同市の鉄道広域ネットワークの形成に大きく貢献するものと考えられています。
IBXの整備方法については、地下鉄や通勤鉄道と同じヘビーレール方式、路面電車に近いライトレール方式、バスラピッドトランジット(BRT)の3つの整備方法が検討されてきましたが、ホークル知事は5日、IBXはライトレール方式で整備するのが最も費用対効果が高いとの見解を示しました。
Source: MTA、New York State、IBX Planning & Environmental Linkages Study
IBXの整備ルート
IBXは、ロングアイランド鉄道(LIRR)が保有するベイリッジ支線(Bay Ridge Branch)、およびCSXトランスポーテーションが保有するフリーモントセカンダリー線(Fremont Secondary)と呼ばれる貨物線を旅客線化する形で整備される予定で、路線延長は約14マイル(約22km)となります。なお、IBX開業後も貨物線としての役割は維持されます。
IBXの整備によって、ブルックリンおよびクイーンズ内にある最大17の地下鉄駅およびLIRRの駅との相互連絡を可能とする広域鉄道ネットワークが形成されることとなり、両エリア間の移動時間が大幅に短縮されるほか、マンハッタンにおける地下鉄路線の混雑緩和も期待されています。なお、IBXには以下の19駅が新設される予定となっています。
駅名(仮称) | エリア | 接続路線 |
---|---|---|
ブルックリンアーミーターミナル Brooklyn Army Terminal | サンセットパーク Sunset Park | |
4thアベニュー 4 Avenue | サンセットパーク Sunset Park | R |
8thアベニュー 8 Avenue | サンセットパーク Sunset Park | N |
ニューユトレヒトアベニュー New Utrecht Avenue | ボローパーク Borough Park | D/N |
マクドナルドアベニュー McDonald Avenue | ケンジントン Kensington | F |
イースト16thストリート East 16 Street | ミッドウッド Midwood | B/Q |
フラットブッシュアベニュー・ノストランドアベニュー Flatbush Av – Nostrand Av | フラットブッシュ Flatbush | 2/5 |
ユーティカアベニュー Utica Avenue | フラットランズ Flatlands | |
レムゼンアベニュー Remsen Avenue | ニューロッツ New Lots | |
リンデンブルバード Linden Blvd | ニューロッツ New Lots | L |
リヴォニアアベニュー Livonia Avenue | ブラウンズビル Brownsville | L、3 |
サッターアベニュー Sutter Avenue | ブラウンズビル Brownsville | L |
アトランティックアベニュー Atlantic Avenue | イーストニューヨーク East New York | A/C、J/Z、L、LIRR |
ウィルソンアベニュー Wilson Avenue | ブッシュウィック Bushwick | L |
マートルアベニュー Myrtle Avenue | リッジウッド Ridgewood | |
メトロポリタンアベニュー Metropolitan Avenue | ミドルビレッジ Middle Village | M |
エリオットアベニュー Eliot Avenue | マスペス Maspeth | |
グランドアベニュー Grand Avenue | エルムハースト Elmhurst | |
ローズベルトアベニュー Roosevelt Avenue | ジャクソンハイツ Jackson Heights | E/F/M/R、7 |
検討された整備方法
IBXの整備方式は、以下の3つが検討されました。ヘビーレールは既存の地下鉄や通勤鉄道と同様の方式が想定されており、他線への乗り入れも可能になるメリットがありますが、車両が大型になるため新たなトンネルの整備などが必要になることから、整備費用が最も高くなる結果となりました。一方で、BRTは最も安く整備できる反面、将来の需要増加に対応できない可能性があるほか、定時運行の面でもデメリットがあるとされました。結果的に、将来の需要増加にも対応可能でヘビーレールと比較して建設費が抑制できるライトレール方式による整備が望ましいとの結論に至ったようです。なお、MTAの調査ではライトレール車両の特徴の一つである高加減速性能を発揮することで、他の整備方法よりも所要時間を短縮できるとしています。
整備方式 | 1日乗車人数 (2045年時点の予想) | 整備費用 (2027年時点の予想費用) | 所要時間 | ピーク時運行間隔 |
---|---|---|---|---|
ヘビーレール | 120,000人 | 84.4億ドル (約1兆900億円) | 45分 | 5分間隔 |
ライトレール | 115,000人 | 55.4億ドル (約7,200億円) | 39分 | 5分間隔 |
BRT | 76,000人 | 40.3億ドル (約5,200億円) | 41分 | 5分間隔 |
※1米ドル=129円で計算
今後の予定
今後は、ライトレールでの整備方法を前提とした環境アセスメントが実施される予定となっています。なお、IBXの具体的な開業時期は示されてませんが、MTAは2025年から29年の5か年事業計画にIBXを含めることを目指して環境アセスメントを進めていくとしていることから、開業時期は早くても2030年前後になると思われます。
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