ニューヨークのみならず西半球最大の利用客数を誇る鉄道ターミナル「ペン・ステーション(Pennsylvania Station: Penn Station)」は、ニューヨーク州のクオモ前州知事のもとで、駅周辺での10棟の再開発ビルの建設を含む再開発計画が進められていました。しかし、クオモ前州知事が辞任したことでこの再開発の動向が注目されていました。今月3日、クオモ氏の後任となるキャシー・ホークル州知事は、これまでの大規模な計画内容を継承しつつも、パンデミック後を見据えて再開発ビルの規模を縮小するなどし、代わりに公共スペースを増やした新たなペン・ステーション再開発の内容を発表しました。
なおペン・ステーションでは、今年1月に開業した新コンコース「モイニハン・トレイン・ホール(Moynihan Train Hall)」が話題となりました。ただ、同施設の利用者はアムトラックなどの中長距離列車の乗客が中心となっており、ペン・ステーションを利用する多くのニューヨーカーは、1968年に完成したマディソン・スクエア・ガーデン(Madison Square Garden: MSG)直下にある、薄暗く、混雑が常態化している古いコンコースの利用がメインとなっていました。
マップ
ペン・ステーション再開発の概要
現在のペン・ステーションは、20万人程度の利用者を想定した設計となっており、パンデミック前の同駅一日平均利用者である約60万人に対して、キャパシティを大幅に超過している状態でした。さらに、2038年には同駅の利用者は89万人にまで増加すると予測されており、ペン・ステーションの混雑解消はニューヨークにとって急務となっていました。ちなみに、駅の一日利用者89万人とは、日本におけるJR大阪駅に近い数字となっています。
ペン・ステーション再開発には60〜70億ドル(およそ7,000〜8,000億円)の建設費が必要になると想定されています。ニューヨーク州政府は、建設費高騰を避けるためにも本プロジェクトを早期に始動させたい意向で、工期は着工から4〜5年を見込んでいます。また、今回の再開発と同時にニューヨークの中心駅でありながらペンシルバニアの名前が使われている現在の駅名を改称することも検討しているようです。なお、変更前に公開されていたイメージには、「エンパイア・ペン・ステーション(Empire Penn Staion)」と描かれていましたが、実際にはどうなるのでしょうか。
以下は、今回の発表で示されたペン・ステーション再開発の概要です。
世界トップクラスの鉄道駅施設
- 新コンコースは、現在の二層構造から一層構造とし天井高さを2倍にする。また、広さを現状の約11,400平方メートルから23,200平方メートルと2倍に拡大することで、通路などの混雑緩和をはかると同時に、現在の2倍の乗客数に対応可能とする。
- 現在の薄暗く閉鎖的なコンコースのイメージを払拭するために、モイ二ハン・トレイン・ホールよりも大きい全長約140mの太陽光が降り注ぐ空間を創出、さらに広さはモイニハン・トレイン・ホールとグランドセントラルのコンコースを合わせた規模とする。
- シンプルな案内表示の設置。
- 駅の出入口を視覚的にわかりやすくする工夫の導入。
- プラットホームでの混雑を削減するため、エスカレーターまたは階段を18箇所追加、エレベーターを11機増設。
開発密度の削減
- 再開発ビルの延床面積は当初の計画よりも約13万平方メートル削減し高さも抑えめにする。
- 33rd ストリートからエンパイア・ステート・ビルが見えるようにする。
公共空間の創出および社会福祉への貢献
- ロックフェラー・プラザと同規模の公共空間を含む、合計約32,000平方メートルの公共空間を創出し、建設される全てのビル周辺に対し公共空間設置の義務化をおこなう。
- 周辺コミュニティのリーダーや利害関係者により形成された、誰でも利用できる公共空間を創出するための作業部会を発足させる。
- 駅周辺のホームレス問題への対応を中心としたにコミュニティ施設スペースの設置を義務付け。
- MSGへのトラック専用地下搬入エリアを設ける。
手頃な価格の住宅提供
- 高所得者でなくても借りられる適正価格住宅(Affordable housing)を1,800戸提供。そのうち540戸については適正価格を将来にわたって維持する住宅とする。
- 再開発ビルのうち1棟は住宅棟とすることを義務付け、そのうち162戸は永久的に適正価格住宅とする。ただし、ペン・ステーションの南エリアでの再開発が実施された場合は、そちらに移動させることを可能とする。
公共交通アクセス
- ニューヨーク地下鉄の34thストリート・ヘラルド・スクエア駅(B、F、M、N、R、Wライン)への連絡通路を設置し、ペン・ステーションへのアクセスを改善する。
- ペンステーションへの出入口を現在の12から20箇所へほぼ倍増させ、すべての再開発ビルには駅への出入口設置を義務化させ、駅周辺の混雑分散をはかる。
- 駅周辺の歩行者通路の幅を広げ、31st、32nd、33rdストリートについては、歩行者優先の道路とする。
- 自転車専用路設け、駅周辺の駐車スペースを削減する代わりに駐輪場を拡大する。
歩行者優先の街並み
- 再開発ビルのロビーとして使用する面積を削減。
- 全ての再開発ビルの通りに面するエリアの4割を、物販やコミュニティ施設として利用することを義務付け。
エントランス付近
こちらはペン・ステーションの入り口となるエリアです。周辺の再開発ビル全てに駅へのエントランスが設置されると同時に、歩行者専用の公共スペースが設けられます。
夜間には周辺のライトアップも行われ、暗さを感じさせない公共空間が誕生します。
ペン・ステーションに隣接する33rdストリートは歩行者中心の空間へと生まれ変わります。
駅周辺は野外イベントなども開催される市民の憩いの場となる予定です。
モイニハン・トレイン・ホールに隣接する33rdストリートも歩行者専用となり、ペン・ステーション周辺には人が中心の広々とした空間が誕生します。
新コンコース内部
コンコース内部には自然光がたくさん降り注ぎます。多くの壁面はデジタルサイネージとなるようで、近未来的な空間が広がります。
東コンコース(East Train Hall)の完成イメージです。現在の薄暗いコンコースが一気に明るく開放的な空間へと生まれ変わります。イメージ奥の壁面も全面が大きなデジタルサイネージになっているようで、そこに時計や発車案内が表示されるようです。
一層構造となって天井が高くなったコンコースです。新設されるエレベーターも確認できます。
Source: New York State, MTA
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