今年1月に発足したバイデン政権は、看板政策の1つであるアメリカン・ジョブズ・プラン(The American Jobs Plan)の中で、1兆5,900億ドル(約180兆円)規模のインフラ投資計画(Infrastructure Plan)を発表していました。その後、8月に同法案は上院で可決されていましたが、下院においては民主党の急進左派グループの反対で手続きが進んでいませんでした。しかし、南部バージニア州の知事選挙で民主党の候補者が敗北したことをきっかけに、同法案に反対していた下院の多数が賛成にまわったことで、今月5日、インフラ投資法案が下院においても可決されました。今後、バイデン大統領が本法案に署名することで正式に発行されます。
今回可決された法案では、当初よりも削減され総額1兆2,000億ドル(約135兆円)となり、新規支出は今後5年間で5,500億ドル(約62兆円)となっています。そのうち旅客および貨物鉄道には、660億ドル(約7.5兆円)の予算が割り当てられる予定です。これは、当初予定の800億ドル(約8.8兆円)よりは削減されていますが、50年前のアムトラック(Amtrak)設立以来、旅客鉄道に割り当てられる連邦政府予算として最大となります。
アムトラックは今回のインフラ投資法案可決を受けて、以下のようにコメントしています。
超党派インフラ法案の可決によって、米国史上最大規模となる都市間旅客鉄道への投資が行われることになり、アムトラックサービスの新時代の幕開けとなります。気候危機、ビジネス機会の創設、質の高い雇用の創設、国内モビリティの拡大といった課題を解決するために、アムトラックや旅客鉄道が果たす重要な役割を理解していただいたバイデン大統領および議会に感謝しています。今後、ブティジェッジ運輸長官や、アムトラックのパートナーである州、通勤鉄道、鉄道施設保有者および全米各地の自治体とともに、北東回廊のインフラ修繕をはじめ、全米各地で計画している新たなアムトラックルートの開設に向け、協議を進めていくことを楽しみにしています。
“The passage of this bipartisan infrastructure bill provides historic levels of investment for intercity passenger rail in this country and the start of a whole new era for improved and expanded Amtrak service. We are grateful to President Biden and Congress for their belief in Amtrak and the power of passenger rail to help tackle the climate crisis, create economic opportunity and good-paying jobs, and expand mobility for our nation. We look forward to working with Secretary Buttigieg, our state, commuter and host railroad partners, and communities across America to rebuild and improve the Northeast Corridor and launch the next generation of Amtrak service in cities and towns across America.”
Amtrak Board Chair Tony Coscia
旅客鉄道はこれからの米国が必要とする交通ソリューションであり、アムトラックはそれを実現させるための準備が整っています。インフラ法案によって、アムトラックの北東回廊で計画されている大規模なインフラ修繕、主要駅の再開発、新型車両導入といった計画を前進させることが可能になり、全米各地での新たなアムトラック路線の開設により、より多くの人が旅客鉄道を利用できるようになります。この法案で鉄道へのコミットメントが示されているように、バイデン大統領および議会は、米国の鉄道およびアムトラックの将来を確信しており、我々はこれらのプロジェクトをスピーディーに進めていきます。
“Passenger rail offers the transportation solutions this country needs, and Amtrak is ready to make it happen. This bill will allow Amtrak to advance significant infrastructure and major station projects on the NEC, purchase new passenger rail equipment and develop new rail corridors, bringing passenger rail to more people across the nation. As demonstrated by their commitment to rail in this bill, President Biden and Congress believe in the future of rail and Amtrak and we will move quickly to advance these projects.”
Amtrak CEO Bill Flynn
コネクトUS計画
アムトラックが2021年5月に発表した15年ビジョン「コネクトUS(Connects US)」では、今後15年以内に39路線の新設や既存25路線のサービス拡大が計画されています。したがって、今回のインフラ法案の可決で、老朽化した北東回廊のインフラ修繕だけでなく、これまでインターシティ列車の設定がなかったアトランタ近郊、テキサス州の各都市などにおいて、新たなインターシティ列車が設定されることになりそうです。また、既存のインターシティ列車も運行区間延長、増発、新型車両の導入といったサービス改善が期待できます。
アメリカの鉄道は、施設の老朽化やアクセスの悪さといったハード面の課題以外にも、遅延の多発や大雑把な旅客サービスといったソフト面での課題が多いのも事実ですが、今回の連邦政府による旅客鉄道への大規模投資によって、今後アムトラックをはじめアメリカの旅客鉄道が大変貌を遂げる可能性がいよいよ現実味を帯びてきました。
Source: The White House, Amtrak, CNN
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