カリフォルニア高速鉄道、高速鉄道車両の調達に向けた入札プロセスを開始

カリフォルニア高速鉄道局(California High-Speed Rail Authority: CHSRA)は8月24日、先行整備が進められているセントラルバレー区間において、2028年から予定されている高速運転試験、および2030年以降に予定されている同区間の先行開業時に使用される高速鉄道車両の入札プロセスを開始したと発表しました。今回開始された入札プロセスは、車両調達先を決定するために2段階で実施される審査のうち最初のステップに該当するもので、入札への参加を希望する車両メーカーの入札参加資格を見極めるために実施されるものです(Request for qualifications: RFQ)。これを受けて、入札を希望する車両メーカーはCHSRAに対して参加資格審査申請書(Statements of Qualifications: SOQs)を提出することになります。

Image: California High-Speed Rail Authority

CHSRAは、今年11月ごろまでに各車両メーカーからのSOQsが出揃うと見込んでおり、それをもとに入札参加資格のある車両メーカーリストを作成、2024年前半にこれらの車両メーカーに対して提案依頼書(Request for Proposal)を送付、2025年ごろには車両メーカーが選定される予定です。なお、今回開始された入札で調達予定の車両内訳は下の表の通りとなっています。また、契約には車両の設計、生産、30年間にわたる保守、点検、部品供給などが含まれる予定です。

カリフォルニア高速鉄道2023年プロジェクトアップデート報告書で示されている車内イメージ
Image: California High-Speed Rail Authority
最高速度試験用車両先行開業区間で使用する量産車両
導入編成数2編成(8両編成2本)4編成(8両編成4本)
スペック350km/h(営業最高速度)
※390km/h(最高速度試験用)
350km/h(営業最高速度)
耐用年数最低30年最低30年
定員450席以上450席以上
納入期限2028年2030年末

Source: CHSRADesigning the Train Interiors for California High-Speed Rail

日本の車両メーカーの勝機は?

さて、今回のカリフォルニア高速鉄道の車両入札プロセス開始に関する発表ですが、はたして日本の車両メーカーが受注できる可能性はあるでしょうか。以下に、入札に参加すると予想される主要車両メーカーのうち、現在、高速鉄道車両を製造している主要な車両メーカーの実績などを表にまとめました。

シーメンス(Siemens)アルストム(Alstom)中国中車
(CRRC)
タルゴ
(Talgo)
CAFシュタッドラー
(Stadler)
ヒュンダイロテム
(Hyundai Rotem)
高速鉄道車両の製造が可能な北米工場※1※2×××××
北米向け一般鉄道車両の納入実績
350km/h運転に対応可能な車両の製造実績ヴェラロ(Velaro)アヴェリア(Avelia)Fuxing(CR400AF)
CRH380A
Talgo 350Oaris×EMU-320
※1ブライトラインやアムトラック向けに最高時速200kmに対応した車両(Venture)をカリフォルニア州サクラメントの工場で製造、さらにノースカロライナ州にも新工場を建設中(2024年から稼働予定)
※2設計最高時速350kmに対応した次世代アセラ(Avelia Liberty)をニューヨーク州ホーネルおよびローチェスターの工場で製造
シーメンスのヴェラロをもとにしたカリフォルニア高速鉄道の車両イメージ
Image: California High-Speed Rail Authority

まず、海外の車両メーカーについてですが、すでにアムトラック向けの新型アセラ(Averia Liberty)の製造実績があるアルストム、フロリダ州ブライトラインやアムトラック向けの短・中距離列車向けで最高速度200km/hに対応している車両を製造しているシーメンスが有力候補となるのは間違いないと思われます。また、中国中車に関しては、現時点において営業最高速度350km/h運転を実施している車両の製造実績がある唯一の車両メーカーであると同時に、価格面においても有利な提案が出される可能性が高いため、日本の車両メーカーにとっては手強い競争相手となることが予想されます。

アルストムがアムトラック向けに製造したAveria Liberty
Image: Amtrak
日立製作所
(Hitachi Rail)
川崎車両
(KRC)
日本車輌近畿車輛J-TREC
高速鉄道車両の製造が可能な北米工場※1××××
北米向け一般鉄道車両の納入実績
350km/h運転に対応可能な車両の製造実績N700S、E5系、Zefiro※2E5系、efSET※3N700S××
※1メリーランド州に高速鉄道車両の製造にも対応した車両工場を建設中(2024年から稼働予定)
※2ボンバルディアが開発したZefiroに関する関連資産をアルストムから取得
※3川崎車両が自社開発を発表している新幹線技術をベースにした世界市場向け車両

日本の車両メーカーに関しては、以前、川崎重工(現川崎車両)を中心とした日本連合がカリフォルニア高速鉄道の車両や信号システムの受注を目指していることが報道されており、川崎車両は2008年にアメリカ市場などを念頭においた世界市場向け高速鉄道車両(efSET)の自社開発を発表しています。また、英国などで高速鉄道車両の納入・受注実績がある日立レールは、2024年からの稼働を目指してメリーランド州にワシントンD.C.メトロ向け車両を製造するための車両工場を建設中ですが、同工場は高速鉄道車両の製造にも対応可能となる予定で、カリフォルニア高速鉄道の入札参加も念頭に入れている可能性があります。さらに、現在はJR東海の子会社である日本車輌については、2018年にアメリカ市場における車両製造から撤退していますが、テキサス高速鉄道が実現した場合に導入が予定されているN700Sの製造の中心を担っているため、北米市場への再進出を目指すのかが気になるところです。

日立がメリーランドに建設中の新車両工場
Image: Hitachi Rail

いずれにせよ、前回、車両調達の入札が実施される予定だった2017年頃と比べて車両メーカーの情勢もだいぶ変化しているのが現状です。そのため、今回改めて実施されることになる入札に、日本勢が以前と同様の体制で臨むのかが注目されます。カリフォルニア州は日本と同じく地震が多く発生する地域であることから、日本の新幹線で採用されている地震対策、安全性、高い環境性能などの強みを全面に押し出して、是非とも受注成功に繋げて欲しいと思います。

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