LAメトロ(LA Metro)は、サンタモニカ・マウンテン(Santa Monica Mountains)によって地理的に分断されたサンフェルナンド・バレー(San Fernando Valley)エリアとカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などがあるロサンゼルスのウェストサイド(Westside)エリア、さらにはロサンゼルス国際空港(LAX)を結ぶ公共交通を建設する「セプルベダ・トランジット回廊プロジェクト(Sepulveda Transit Corridor Project)」を計画しています。この2つのエリアを結ぶ主要高速道路である「インターステート405(Interstate 405: I-405)」は、サンフェルナンド・バレーの住民がウェストサイドやLAXへ向かう主要ルートとなっているため、ロサンゼルスの中でも特に渋滞が多発する区間として有名となっています。
なお、このプロジェクトに必要な資金のうち、LAXまでの計画を含めた95億ドル(約1兆1,000億円)については、2016年11月に賛成多数で可決されたロサンゼルスの交通網整備のための消費税増税を問う住民投票「メジャーM(Measure M)」によって確保されています。
プロジェクトマップ
セプルベダ・トランジット回廊プロジェクトでは、2035年までにサンフェルナンドからウェストサイドまでの区間(紫色のエリア)を、2057年までにウェストサイドからロサンゼルス国際空港までの区間(黄色のエリア)を整備する予定です。
フェーズ1
整備エリア
フェーズ1では、広大なサンフェルナンドバレーの中で最も人口の多い「ヴァンナイズ(Van Nuys)」と、UCLAがある「ウェストウッド(Westwood)」、Little Osakaの愛称をもつジャパンタウンがある「ソウテル(Sawtelle)」などが軌道で結ばれます。また、ヴァンナイズではメトロリンクのヴァンナイズ駅および2028年に開通予定のイースト・サンフェルナンド・ライトレール(East San Fernando Light Rail)、ウェストサイドでは、2027年に開通予定のDライン(旧パープルライン)、およびEライン(旧エキスポライン)と接続する予定となっています。
整備方法およびルート
フェーズ1は、モノレールまたはヘビーレール(日本でいう都市高速鉄道)で整備する2つのパターンが検討されています。それぞれのパターンの整備ルートは3案ずつ(以下参照)検討されています。
モノレール案
モノレール案は、2〜8両編成の自動運転車両を最大2分間隔で運行することが想定されています。メリットとしては、建設コストが抑えられること、車内からの眺望が良いなどといったことが考えられます。ただ、全く新しいシステムを導入することによるコスト増も考えられることから、建設コストの抑制効果がどこまであるのかは疑問です。また、提案されている3ルートのうち2ルートについてはUCLAへのアクセス確保のために別の輸送システムを導入する想定となっているため、利便性が低下することも考えられます。
車両数 | 2〜8両編成(1両の定員76〜79人) |
運転間隔 | 最大2分間隔 |
ルート1
全長15.3マイル(24.6km)を全線高架線で建設するルートです。以下の8駅が設置される予定で、UCLAのキャンパスへのアクセスを確保するため、キャンパス内まで行く電気バスルートが設定されます。
- エクスポジション・ブルバード(Exposition Bl)※ Eラインと接続
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ DラインおよびUCLAへ向かう電気バスと接続
- ゲッティ・センター(Getty Center)
- US-101(US-101)
- メトロGライン※ Gラインと接続
- シャーマンウェイ(Sherman Way)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)
ルート2
全長15.8マイル(約25.4km)を全線高架線で建設するルートです。以下の8駅が設置される予定で、ウィルシャー・ブルバード駅からUCLAキャンパスへ向かう新交通システム(Automated People Mover: APM)とセットで建設されます。
- エクスポジション・ブルバード(Exposition Bl)※ Eラインと接続
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ DラインおよびUCLAへ向かうAPMと接続
- ゲッティ・センター(Getty Center)
- US-101(US-101)
- メトロGライン※ Gラインと接続
- シャーマンウェイ(Sherman Way)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)
ルート3
全長16.2マイル(約26km)を高架および地下線で建設するルートで、以下の9駅が設置される予定です。モノレール案では唯一UCLAキャンパスに駅を設置する案となっています。
- エクスポジション・ブルバード(Exposition Bl)※ Eラインと接続
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ Dラインと接続
- UCLAゲートウェイプラザ(UCLA Gateway Plaza)※地下駅
- ゲッティ・センター(Getty Center)
- US-101(US-101)
- メトロGライン※ Gラインと接続
- シャーマンウェイ(Sherman Way)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)
ヘビーレール案
ヘビーレール案は、自動運転またはワンマン運転による運行が想定されており、ルートは以下の3案が検討されています。路線のほとんどが地下線で建設されるため建設費が高いというデメリットはありますが、提案されている全てのルートでUCLAに駅が設置されるため、利用者にとっての利便性は最も高いといえます。
車両数 | 3〜4両編成(1両の定員170人) |
運転間隔 | 最大2分30秒間隔 |
車両数 | 6両編成(1両の定員133人) |
運転間隔 | 最大4分間隔 |
ルート1
ウェストサイドは全線地下線、サンフェルナンドバレーでは高架線で建設する路線延長14マイル(約22.5km)のルートです。以下の8駅が設置される予定です。
- エクスポジション・ブルバード(Exposition Bl)※ Eラインと接続(地下駅)
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl)(地下駅)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ Dラインと接続(地下駅)
- UCLAゲートウェイプラザ(UCLA Gateway Plaza)※地下駅(地下駅)
- ベンチュラ・ブルバード(Ventura Bl)
- メトロGライン※ Gラインと接続
- シャーマンウェイ(Sherman Way)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)
ルート2
ヴァンナイズ・メトロリンク駅以外は全線地下線で建設する路線延長14マイル(約22.5km)のルートで、以下の8駅が設置される予定です。
- エクスポジション・ブルバード(Exposition Bl)※ Eラインと接続(地下駅)
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl)(地下駅)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ Dラインと接続(地下駅)
- UCLAゲートウェイプラザ(UCLA Gateway Plaza)※地下駅(地下駅)
- ベンチュラ・ブルバード(Ventura Bl)(地下駅)
- メトロGライン※ Gラインと接続(地下駅)
- シャーマンウェイ(Sherman Way)(地下駅)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)
ルート3
全線地下線で建設する路線延長12.6マイル(約20.2km)のルートで、以下の8駅が設置される予定です。エキスポラインの接続駅が、エキスポ・バンディ(Expo/Bundy)駅となっている点が他の2ルートと異なります。
- オリンピック・ブルバード(Olympic Bl)※ Eラインと接続
- サンタモニカ・ブルバード(Santa Monica Bl: West LA Civic Center)(地下駅)
- ウィルシャー・ブルバード(Wilshire Bl)※ Dラインと接続(地下駅)
- UCLAゲートウェイプラザ(UCLA Gateway Plaza)※地下駅(地下駅)
- ベンチュラ・ブルバード(Ventura Bl)(地下駅)
- メトロGライン※ Gラインと接続(地下駅)
- ヴァンナイズ・メトロリンク(Van Nuys Metrolink Station)(地下駅)
フェーズ2
整備エリア
フェーズ2では、サンフェルナンドバレー、ウェストサイドなどからロサンゼルス国際空港へのアクセスとして、現在建設中のLAX新交通システム(LAX Automated People Mover)およびKライン(クレンショー・LAXライン)と接続する「アビエーション・96thストリート(Aviation/96th Street)駅」までの延伸が計画されています。
整備方法およびルート
フェーズ2は、フェーズ1で採用された整備方法およびルートからさらに延伸、またはDライン(パープルライン)を延伸する方法が以下のとおり検討されています。
現在のところ、Eラインのエキスポ・セプルベダ(Expo/Sepulveda)駅を経由する場合は4ルートが検討されているようですが、フェーズ1でモノレールが採用された場合はI-405を通る案のみとなります。
エキスポ・バンディ(Expo/Bundy)駅を通る案は、フェーズ1のヘビーレール案のルート3を延伸、またはDラインを延伸する案が検討されています。
今後の予定
LAメトロは、カリフォルニア環境品質法(CEQA)に従った環境影響レポート(Environmental Impact Report: EIR )、および国家環境政策法(NEPA)に従った環境影響ステートメント(Environmental Impact Statement: EIS)を作成するための環境アセスメント(Environmental Review)を、2021年11月より開始しています。環境アセスメントでは、上記の6案および全く整備を行わない案も含めて、住民の意見も取り入れながら、どのような方法で整備するのが望ましいかの検討が実施されます。
また、この環境アセスメントに先立ち、早期段階から官民連携(Public Private Partnership: PPP)の可能性を模索するため、モノレール案およびヘビーレール案のコンセプト作成を委託するための入札も行われました。その結果、モノレール3案については、中国のBYDを中心に構成される企業連合「LAスカイレールエクスプレス(LA SkyRail Express: LASRE)」が、ヘビーレール3案についてはアメリカのベクテル(Bechtel)を中心とする企業連合「セプルベダ・トランジット・コリダー・パートナー(Sepulveda Transit Corridor Partner)」が選定されました。環境アセスメントにおいて、いずれかの提案が最適な整備方法として選定された場合、民間による出資も視野にプロジェクトを進められることになります。
Source: LA Metro
コメントを残す