全米一の人口を抱えるカリフォルニア州では、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、サクラメントなど、州内の主要都市を最高時速320km以上の高速鉄道で結ぶ「カリフォルニア高速鉄道(California High-Speed Rail: CAHSR)」プロジェクトが進行中です。同プロジェクトはカリフォルニア州高速鉄道局(California High-Speed Rail Authority)が中心となって進められているもので、2008年には、最重要区間であるサンフランシスコ〜ロサンゼルス/アナハイム間の建設費の一部に州の税金を投じることを問う住民投票「Proposition 1A」が承認されました。
以降、幾度となく着工延期、計画変更、規模縮小などが繰り返されてきたCAHSRプロジェクトですが、現在、一部区間では着々と建設工事が進められています。今回は、そんなCAHSRプロジェクトについて調べてみたいと思います。第4回は、2029年の先行開業を目指しているマーセド(Merced)〜ベーカーズフィールド(Bakersfield)間のうち、途中のフレズノ(Fresno)までの進捗状況ついてさらに詳細を見ていきます。
サン・ホアキン、ACEとの連携でセントラル・バレーとベイエリアの移動時間を短縮
セントラル・バレー(Central Valley)はカリフォルニア州の中央部に位置するエリアで、主要都市にはサクラメント、ストックトン、フレズノ、ベーカーズフィールドなどがあります。これらの都市を含む総面積は約47,000平方キロメートルで、2010年時点の人口は約720万人となっています。現在同エリアには、オークランド/サクラメント〜ベーカーズフィールド間の各都市を結ぶアムトラックの列車「サン・ホアキン(San Joaquins)」や、サンノゼ〜ストックトンを結ぶ通勤列車「ACE(Altamont Corridor Express)」が運行されています。
CAHSRのマーセド〜ベーカーズフィールド間が開通すると、サン・ホアキンはCAHSRのリレー列車としてマーセド以北のみの運行となるほか、ACEをマーセドまで延伸する計画もあり、これらの列車を乗り継ぐことでセントラル・バレーの主要都市とベイエリアおよびサクラメント間の所要時間が短縮されます。マーセド駅は、CAHSRとアムトラック、ACE、高速バスなどと連絡するために重要な役割を果たすため、交通ハブとして整備される予定です。
マーセド〜ベーカーズフィールド間の所要時間は1時間21分となる予定で、自動車よりも1時間13分、アムトラックよりも1時間38分短縮されることとなります。
建設ルートおよび整備方式
全区間を高速鉄道路線として整備
マーセド〜フレズノ間の環境アセスメントはすでに終了しており、同区間は上の図の案で整備されることが、2012年に決定しています(Record of Decision: ROD)。同区間は時速320km以上に対応する高速鉄道専用線として建設され、ほぼ全区間が地上区間として建設されますが、セントラル・バレー・デルタ線(Central Valley Wye)付近、マーセド駅手前などは高架または地下区間として整備される予定です。なお、マデラからフレズノまでの区間についてはすでに着工済みとなっており、高速運転試験が開始される予定の2025年までの完成を目指して建設工事が進められています。
単線での整備も検討
2020年ビジネス計画書(2020 Business Plan)によると、2029年の先行開業を予定しているマーセド〜ベーカーズフィールド間について、初期コストをなるべく抑えるための暫定措置として、単線として整備することも検討されています。この場合、通過線を駅などに設けることで、同区間開業時に予定されている1日18往復程度の運行が可能としています。この案で整備される場合、将来の需要に応じて段階的に複線化されることになります。
建設状況
マデラ〜フレズノ間のサン・ホアキン川高架橋(San Joaquin River Viaduct)は、全長約4,700フィート(1,400メートル)あります。構造物は既に完成していますが、軌道や架線はまだ敷かれていません。
フレズノ駅の北には、州道180号線(State Route 180)の下をとおる長さ約1マイル(1.6km)のフレズノ掘割(Fresno Trench)を建設中です。こちらも、軌道などはまだ整備されていません。
フレズノ掘割を走るCAHSRのイメージ動画です。
駅の整備方法
マーセド駅
CAHSRのマーセド駅建設予定地です。
マーセド〜フレズノ間の最終評価書(FEIS)では、マーセド駅は地上駅として整備する想定となっており、将来の利用状況に合わせて駅周辺には立体駐車場なども整備される予定です。
最終評価書では、ホームの真ん中に通過線を配置した相対式2面2線で描かれていますが、詳細な設計は今後実施される予定です。
なお、アムトラックのマーセド駅とCAHSRのマーセド駅は7ブロックほど離れた位置にあります。そのため、サン・ホアキンの運行を管理するSJJPA(San Joaquin Joint Powers Authority)は、サン・ホアキンとCAHSRの対面乗り換えを可能にするための連絡線建設プロジェクト(Merced Intermodal Track Connection: MITC)を計画しています。MITCについては、増大する建設費をどのように確保するかといった課題がありますが、マーセドでのサン・ホアキンやACEへのスムーズな乗り換えが実現できなければ、CAHSRフェーズ1の利便性が著しく低下してしまう恐れがあるので、非常に重要な鍵を握っているといえます。
マデラ駅
CAHSRのマデラ駅建設予定地です。現在のアムトラックのマデラ駅からはかなり離れた場所にあります。
マデラ駅はSJJPAが整備する駅となっており、整備は2段階に分けて実施される予定です。2024年の完成を予定している第一段階では、アクセスが悪い場所にある現在のアムトラック・マデラ駅を将来のCAHSRの駅に隣接する位置に移設します。第二段階では、CAHSRが開通する2029年までにCAHSR用のホームが建設されます。
マデラ駅には停車列車用の副本線が一本のみ整備される予定で、そこに単式ホームが建設される計画となっています。したがって、マーセド方面およびベーカーズフィールド方面の列車が同一ホームを使用することなるため、副本線の分岐点手前には渡り線も設置されます。
CAHSRのマデラ駅と、アムトラックのマデラ駅の間にはバス乗り場や駐車場などが整備されます。なお、CAHSR開業後はサン・ホアキンの運行は無くなりますが、ローカル輸送に特化した新たな通勤列車の運行も検討されています。
フレズノ駅
フレズノ駅の建設予定地です。同駅も、アムトラックのフレズノ駅からは離れた位置に建設されます。
フレズノ駅では、ヨセミテ国立公園方面へ向かうバスや、長距離バスなどに接続する予定です。
フレズノ駅は相対式ホーム2面2線の構造で、真ん中に本線となる通過線2線が設置されます。また、ベーカーズフィールド方面には車両留置線も設置されます。
特徴的なドーム屋根で覆われた構造の駅が描かれています。
特徴的なドーム屋根を外から見たイメージです。
進捗状況
2022年ビジネス計画書案によると、マーセド〜フレズノ間のうち、既に着工済みのマデラ〜フレズノ間の建設工事については7割程度が完成している状況となっています。また、マーセド〜マデラ間やについても、今年前半には設計などを担当する業者が発表される予定となっています。
※1ドル=119円で計算
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