全米一の人口を抱えるカリフォルニア州では、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、サクラメントなど、州内の主要都市を最高時速320km以上の高速鉄道で結ぶ「カリフォルニア高速鉄道(California High-Speed Rail: CAHSR)」プロジェクトが進行中です。同プロジェクトはカリフォルニア州高速鉄道局(California High-Speed Rail Authority)が中心となって進められているもので、2008年には、最重要区間であるサンフランシスコ〜ロサンゼルス/アナハイム間の建設費の一部に州の税金を投じることを問う住民投票「Proposition 1A」が承認されました。
以降、幾度となく着工延期、計画変更、規模縮小などが繰り返されてきたCAHSRプロジェクトですが、現在、一部区間では着々と建設工事が進められています。今回は、そんなCAHSRプロジェクトについて調べてみたいと思います。第2回は、2031年の開業を目指しているベイエリア(サンフランシスコ〜サンノゼ間)の進捗状況ついてさらに詳細を見ていきます。
高速鉄道を中心とした広域ネットワークの形成
サンフランシスコ・ベイエリア広域都市圏は、26,390平方キロという広大なエリアにおよそ970万人の人口を有しいます。これは、広域都市圏人口としてニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントンに次いで全米第5位の規模をほこります。CAHSRは、ベイエリアで運行されるバート(BART)、カルトレイン(Caltrain)、ミュニ・メトロ(Muni Metro)、アムトラック(Amtrak)、ACE、VTAライトレールなどの既存鉄道路線と接続を図ることで、広範囲のエリアをカバーするネットワークを整備する計画です。
建設ルートおよび整備方法
カルトレインの電化および速度向上
サンフランシスコ〜サンノゼ間は、CAHSRとカルトレインの運行を完全に分離できる複々線での整備が検討されていましたが、現在は計画が縮小され、カルトレインと線路を共用する形で整備される予定となっています。カルトレインは非電化の鉄道路線ですが、鉄道サービスの近代化を推進するため電化工事プロジェクト「Caltrain Modernization Program(CalMod)」が進められており、2024年からサンフランシスコ〜サンノゼ間で新型電車による運行が開始される予定です。
なお、現在この区間の営業最高速度は時速79マイル(約127km)ですが、将来的に110マイル(約177km)まで引き上げる計画となっており、カルトレインに導入される新型電車も時速110マイル対応となっています。
現在検討されている2つの整備案
サンフランシスコ〜サンノゼ間では、CAHSRの列車が停車駅の多いカルトレインの列車を追い越すための通過線を、サンマテオ(San Mateo)〜レッドウッドシティ(Redwood City)間に新設することが検討されています。通過線を新設することで、CAHSR列車の速達性を確保しやすくなるほか、遅延回復もよりスムーズに行うことができるようになります。しかし、建設費がすでに当初予定よりも大幅に増加しているため、2020年に公表された環境アセスメントの準備書(DEIS)では、通過線を新設せずにすむようダイヤを調整することで対応する案(Alternative A)が望ましいとされています。
停車中のカルトレインの電車を追い越すCAHSRの車両のイメージです。なお、このイメージで描かれているベイショア(Bayshore)駅はすでに通過線が存在する駅となっています。
Source: CAHSR
駅の整備方法
4th・キングストリート駅(暫定ターミナル)
サンフランシスコ側の起点となるCAHSRのターミナルは、現在のカルトレインのターミナルである4th・キングストリート(4th & King Street)駅に整備されます。なおサンフランシスコのターミナルは、将来的にはセールスフォース・トランジット・センター(Salesforce Transit Center: STC)の地下に建設される予定となっており、4th・キングストリート駅はそれまでの暫定ターミナルの役割を果たすこととなります。
4th・キングストリート駅の配線図です。現在の計画では、ターミナル中央部にCAHSR用に嵩上げされた島式ホーム2面4線を配置し、その両隣がカルトレインのホーム(合計4面8線)となる予定です。
高速鉄道のホーム入り口付近には専用の改札口が設置されるほか、コンコースにはチケットカウンターなども整備される予定です。なお、4th・キングストリート駅へのアクセスはミュニ・メトロ(Muni Metro)、バス、ライドシェア、徒歩だけとなっており、何らかのアクセス対策が必要になるかと思われます。
ミルブレー駅
ミルブレー駅は、現在、カルトレインとバートが停車する駅となっています。CAHSRが開業すると、サンフランシスコ国際空港へのアクセス駅となるほか、サンマテオ〜レッドウッドシティ間に通過線を新設しない案(Alternative A)が採用された場合、この駅がカルトレイン列車の待避駅として重要な役割を果たすこととなります。
同駅はサンフランシスコ国際空港の近くに位置しており、バートに乗り継いで空港ターミナルへ行くことができます。
2021年7月に公表された修正版準備書(Revised DEIS)によると、ミルブレー駅の整備方法は、エントランス位置や駐車場設置の有無などが異なる2案が検討されており、どちらの案でもCAHSR用のホームとして島式ホーム1面2線が整備される予定です。
カルトレインおよびバートの列車には、橋上駅舎を利用してスムーズに乗り換えができるようになります。
サンノゼ・ディリドン駅
シリコンバレーの中心駅となるサンノゼ・ディリドン駅は、始発列車も多く設定される予定となっており、運行本数ではサンフランシスコを上回るCAHSRの主要駅となる予定です。
接続可能路線は、アムトラック、カルトレイン、ACE、VTAライトレール、バート(2029年以降開業予定)となり、当駅を起点に広範囲のアクセスが可能となります。
現在のディリドン駅は5面9線を有する駅となっています。ディリドン駅については、既存のホームのうち2面4線分をCAHSR用として改築する案と、CAHSR用のホームを既存のホーム上に高架で新設する案が提案されています。ただ、サンノゼ〜マーセド間の整備に関する最終評価書(FEIS)において、サンノゼ〜ギルロイ間についてもカルトレインの線路を活用する案(Alternative 4)が望ましいとされているため、既存のホームの改築案が有力となっています。
なお、ディリドン駅周辺ではCAHSRの整備計画と並行して、バートの延伸開業やGoogleによる「ダウンタウン・ウェスト(Downtown West)」といった大規模都市開発も予定されています。そのため、CHSRA、サンノゼ市、カルトレイン、サンタクララバレー交通局(Santa Clara Valley Transportation Authority)、メトロポリタン交通委員会(Metropolitan Transportation Commission)の5者が協力し、長期的に同駅を最新の交通ハブとして再整備する「Diridon Integrated Station Concept Plan(DISC)」の検討も進められています。そのため、DISCの動向次第では駅全体を高架化して整備される可能性もありそうです。
Googleによるダウンタウン・ウェスト計画では、オフィスビル、住宅、商業施設などが整備され、サンノゼ・ディリドン駅周辺は大変貌を遂げることとなりそうです。
進捗状況および今後の予定
現在、サンフランシスコ〜サンノゼ間※の整備ついては、2020年に環境アセスメントの準備書(DEIS)が公表されており、その後、一部修正を加えた修正版準備書が2021年に公表されています。同区間の環境アセスメントの最終評価書(FEIS)は年内にも公表される予定で、その後、最終的な建設ルート、整備方法などを正式に決定する予定となっています。
※サンノゼ駅については、サンノゼ〜マーセド間の環境アセスメントに含まれています。
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