アムトラック(Amtrak)が運行する「カスケーズ(Cascades)」は、アメリカの太平洋岸北西部「パシフックノースウェスト(Pacific Northwest: PNW)」の主要都市であるバンクーバー(カナダ)、シアトル、ポートランドなどを結ぶ都市間列車です。カスケーズには、アムトラックの運行する列車で唯一スペインの車両メーカー「タルゴ(Talgo)」が製造した自然振子式客車が使用されています。タルゴ客車の設計最高速度は時速125マイル(約200km)ですが、カスケーズの走行区間は安全設備等が時速200km対応ではないため、営業列車の最高速度は時速79マイル(127 km)となっています。
なお、1998〜1999年にかけて合計67両が導入されたワシントン州交通局とアムトラック保有の「タルゴ6(Talgo 6)」は、2020年にタルゴとのメンテナンス契約が終了したためにすでに引退しています(8両は2017年に発生したDuPontでの脱線事故で廃車)。そのため、現在カスケーズで運行されているタルゴは、オレゴン州交通局が保有する2編成のみとなっています。この2編成は「タルゴ8(Talgo 8)」と呼ばれる形式で、2013年から運行が開始された車両となります。
今回は、タルゴ8で運行されるカスケーズに乗車してきましたのでフォトレポします。
カスケーズのルート
カスケーズは、バンクーバー(カナダ)〜シアトル〜タコマ〜ポートランド〜ユージーン(Eugene)をおよそ10時間25分で結んでいます。現在、シアトル〜ユージーン間の列車が2往復、シアトル〜ポートランド間の列車が1往復設定されています。
※パンデミックの影響でシアトル〜バンクーバー(カナダ)間は運休中です。
エクステリア
タルゴ8客車は、カスケーズ塗装のシーメンス・チャージャー(Siemens Charger: SC-44)によって牽引されます。なお、現在牽引用の機関車はシアトル方に連結されています。
こちらは現在のユージーン方先頭車です。タルゴ8には、このような独特なデザインの運転台付き先頭車が連結されています。なお、2020年に引退したタルゴ6にはこのような運転台付き先頭車はなく、片方の先頭には制御車に転用された機関車が連結されていました。
運転台の後方は、補助電源用の機器スペースとなっています。
カスケーズ専用塗装のタルゴ客車の側面です。窓枠が低い位置にあり、重心が低い設計となっていることがわかります。
こちらはビストロカーです。窓配置が他の車両と異なっています。
各車両のドア付近にはLED式の行き先表示器が設置されています。アムトラックの車両らしくないヨーロッパの鉄道車両を感じさせるスタイルが新鮮です。
タルゴの特徴的な台車です。日本では見ることのできない、一軸台車連接型客車という特徴的な車両となっています。
重心が低いため通常のアムトラックの客車と比較して乗降がしやすくなっています。
現在のシアトル方にはバゲージカーが連結されています。
カスケーズの運行にはワシントン州およびオレゴン州の補助金が投入されているため、それぞれの交通局ロゴが入っています。この編成はオレゴン州の「マウント・バチェラー(Mt. Bachelor)」にちなんだ愛称が付けられています。ちなみに、もう一つの編成には「マウント・ジェファーソン(Mt. Jefferson)」の愛称が付いています。
シーメンス・チャージャーのとの連結部分です。
タルゴ8の客車はシーメンス・チャージャーと比べて車高がかなり低くなっています。
インテリア
普通車(Coach Class)
こちらは2列+2列配置の普通車の車内です。インテリアも、アムトラックの一般的の車両と異なりヨーロッパの鉄道を感じることができるものとなっています。
天井には液晶ディスプレイが数カ所設置されています。
普通車の座席です。薄型の座席ですが、分厚いだけで座り心地の悪い通常のアムトラックのシートと比べてホールド感があり座り心地は良好でした。各座席にコンセントが装備されており、無料の車内WiFiも利用できます。
テーブルは大型のものでノートパソコンも余裕で置くことができます。ただ、金属製のテーブルなので、ノートパソコンなどの表面に傷が着く可能性があるので注意が必要です。
テーブルの下の小物入れです。こちらも金属製なので、傷つきやすいものは入れない方が良さそうです。
窓はホライズン客車と比較して大型のものとなっているため、車窓を十分に楽しむことができます。
荷棚の下にも照明が設置されており、暖色系の照明が良い雰囲気を醸し出してくれます。
ボックス席は各車両中央部に設置されています。
車端部には大型荷物置き場、車椅子用スペースがあります。
普通車のデッキ部の様子です。
ビストロカー
こちらはビストロカーの様子です。カウンターにはコロナ対策としてアクリル板が設置されています。
ビストロカーでは、ホットコーヒーや軽食などが購入できます。
ビストロカーの横にはダイニングカーも連結されています。
ダイニングカーは、2列+1列配置で大型のテーブルが設置されています。
軽食をしながら車窓を楽しむことができます。
筆者はブレックファーストサンドウィッチとホットコーヒーを注文しました。味はまあまあといったところでしょうか。
トイレ
トイレはだいたい2両ごとに設置されています。
おむつ交換台などの設備もあります。
ビジネスクラス
筆者は普通車を利用したので、実際にはビジネスクラスの撮影はできませんでしたが、ビジネスクラスはレザーシートで2列+1列配置となります。
軽量化のためか、ビジネスクラスの座席も非常に薄型のものとなっています。
タルゴ8の概要
タルゴ8は、オレゴン州交通局によって2編成26両が導入されました。なお、タルゴ8はミルウォーキー(Milwaukee)〜マディソン(Madison)間の高速化計画の一環として、ウィスコンシン州も2009年に31両を購入しています。しかし、同計画が頓挫したことでウィスコンシン州がタルゴとの契約を破棄し、メンテナンス料の支払いを拒否したために訴訟問題へと発展してしまいました。そのため、ウィスコンシン州の車両は一度も営業列車に投入されることなく、2022年にナイジェリアに売却されるという数奇な運命をたどっています。
運行者 | アムトラック(Amtrak)※所属はオレゴン州交通局 |
製造者 | タルゴ(Talgo) |
導入編成 | カスケーズ編成: 26両(13両2本) ウィスコンシン州*: 31両(14両2本+予備3両) |
車両番号 | – |
定員 | – |
営業開始 | 2013年〜 |
運行列車 | カスケーズ(Cascades) |
運行区間 | シアトル〜ポートランド〜ユージーン** |
設計最高速度 | 125 mph(200 km/h)※営業最高速度は79 mph(127km/h) |
制御方式 | – |
**シアトル〜バンクーバー間はパンデミックの影響で運休中
Source: Talgo
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