テキサス州では、ダラス〜ヒューストン間で計画されている日本の新幹線技術を使用した高速鉄道整備プロジェクトが有名ですが、全米第四位の都市圏人口を有するダラス・フォートワース複合都市圏(Dallas–Fort Worth metroplex)内においても高速移動手段の整備計画があります。この計画については、高速鉄道またはハイパーループによる整備を前提とした環境アセスメント(Environmental Impact Statement: EIS)が2021年中頃から開始されていました。しかし、その後の方針転換によって、現在は高速鉄道のみにフォーカスしたEISが実施されています。
ダラス〜フォートワース間で高速鉄道が検討されている背景
ダラス〜フォートワース間には「TRE(Trinity Railway Express)」と呼ばれる通勤列車が運行されており、両都市間(約53km)を約1時間で結んでいます。ただ、車での所要時間は30〜50分程度である上、車の場合は目的地までダイレクトにアクセスできることから、鉄道利用は限られているのが現状です。
ダラス・フォートワース複合都市圏の人口は2045年には1,000万人を超えると予測されており、このまま何も対策もしなければ、交通渋滞の更なる悪化は免れない見込みです。そのため、同都市圏の主要都市であるダラス〜アーリントン(Arlington)〜フォートワース間、さらにはテキサス州内の他の大都市圏を自動車よりも速く結ぶことができる高速移動手段の必要性が高まっています。
現在テキサス州では、日本でもテキサス新幹線として報じられているダラス〜ヒューストン間のテキサスセントラル鉄道プロジェクトのほか、フォートワースからオースティンやサンアントニオなどを結ぶ高速移動手段の調査も進めらています。そのため、ダラス〜フォートワース間の高速移動手段は、これらと将来的に接続する役割を担う重要な路線になるといえます。
ダラス・フォートワース間の高速移動手段に関する調査
ダラス・フォートワース複合都市圏の自治体で構成される「ノースセントラルテキサス行政評議会(NCTCOG)」は、2045年の将来を見据えたダラス〜フォートワース間の高速移動手段に関する調査「Dallas-Fort Worth High-Speed Transportation Connections Study: DFWHSTCS」を、2020年3月からの3年計画で実施しています。DFWHSTCSは2段階に分けて実施されており、2021年5月に終了した第1段階ではルートや整備方法の絞り込みが行われました。現在は第2段階が進行中で、アメリカ連邦鉄道局(Federal Railroad Administration: FRA)などが中心となり、環境アセスメントの準備書(DEIS)の作成が行われています。
ルート
DFWHSTCSのフェーズ1で実施されたルートの絞り込みでは、43案の中から3段階のスクリーニングが実施され、インターステート30号線(I-30)に沿って建設する案が推奨されました。この案は、ダラスでテキサスセントラル鉄道(テキサス新幹線)への接続も考慮したルート案となっており、シックスフラッグス(Six Flags)などのあるアーリントン(Arlington)付近に途中駅を設置することも計画されています。
整備方法
DFWHSTCSのフェーズ1では、ダラス〜フォートワース間を20分以下で結ぶことのできる方式として、整備方法を最高時速250マイル(400km)での走行を想定した高速鉄道とハイパーループの2つに絞り込みました。したがって、フェーズ2では高速鉄道とハイパーループによる整備を前提としたEISが実施される予定でしたが、実用レベルに達していない技術をEISに含めることによるスケジュール全体の遅れが懸念されたため、NCTCOGは今年2月に方針転換を決定し、EISは高速鉄道のみを対象とすることになりました(Newsletter)。
今後の予定
現在実施されているEISの評価書(FEIS)は2023年前半に公表される予定です。FEISでダラス〜フォートワース間の高速鉄道整備が推奨された場合、その後、資金調達、詳細設計、建設工事に関する許可取得などを経て着工の流れとなります。ただ、これまでのテキサスセントラル鉄道の事例でも示されているように、資金調達などのプロセスには数年以上単位の時間がかかる見通しです。
一足先を行くダラス〜ヒューストン間のテキサスセントラル鉄道計画は、残念ながら資金調達や訴訟問題などで先行きが不透明な状態が続いています。しかし、同鉄道の整備が現実のものとなった場合、高速鉄道にフォーカスしてEISが実施されることになったダラス〜フォートワース間においても、新幹線方式が採用される可能性は高いと言えそうです。さらにこれらの路線が成功すれば、ハイパーループへの関心が高いとされるダラス・フォートワースからオースティンやサンアントニオを結ぶ高速移動手段の整備方式にも、少なからず影響を与えることになりそうです。
Source: NCTCOG
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