NJトランジット(New Jersey Transit: NJ Transit)は9日、第3世代の2階建通勤車両「マルチレベルIII(Multilevel III)」を25両追加発注したと発表しました。マルチレベルIIIは、同局が運行する車齢40年以上になる通勤電車「アローIII(Arrow III)」を置き換えるため、2018年12月にアルストム(当時はボンバルディア)に113両(動力車58両、制御車33両、付随車22両)が発注されました。今回の追加発注は、最大636両のオプション契約の一部として発注されたものとなります。これにより、「ポータルノースブリッジプロジェクト(Portal North Bridge Project)」の完成を見据えた将来のラッシュ時の輸送力増強や、昨今のサプライチェーンリスクなどに対応する予定です。
2階建通勤車両(マルチレベルIII)の概要
エクステリア
アメリカの鉄道車両は衝突を前提とした車体強度が求められるため、これまでのNJトランジットの車両同様、無骨なデザインとなっています。なお、車体はこれまでのマルチレベルと同様でステンレス製となります。
これまでの2階建車両では電気機関車で牽引する動力集中方式が採用されていましたが、マルチレベルIIIでは動力分散方式に変更されます。なお、動力分散方式の2階建車両が誕生するのはアメリカでは初めての事例となります。
ちなみに、マルチレベルIIIによって置換えられるアローIIIは、現在NJトランジットでは唯一の動力分散式車両となっています。
動力分散式が採用されたことにより、パンタグラフ付きの2階建電動車が登場することになります。基本は3両1ユニットで構成され、1両の電動車につき2両の付随車または制御車といった組み合わせが可能となります。
最高設計速度は第2世代の2階建車両同様に時速110マイル(約180km)となります。なお、今回増備される25両の内訳は、5両の制御車、20両の付随車(うち3両はトイレ付き)となります。
インテリア
車内の座席配置は、置換え予定のアローIIIでは2列+3列となっていますが、マルチレベルIIIでは2列+2列配置に変更され、これまでよりも広々とした快適な移動空間が提供される予定です。さらに、2階建てになることから12両編成時の座席定員は、1,380席から1,552席に増えることになります。
最近の北米の新型車両では標準となりつつあるバイクラックも装備されます。
車内情報案内装置には、NJトランジットとしては初となるLCDスクリーンが採用されます。また、車内照明には自動調光機能付きのLED照明が採用されます。
各座席に設置されるUSB充電ポートもNJトランジット初の装備となります。
最近の日本の鉄道車両同様、セキュリティー強化のための防犯カメラも設置されます。
バリアフリーに対応したトイレが設置された車両も導入されます。
マルチレベルIIIは、初期発注分が2023年から順次運行が開始される予定となっており、アローIII全車両をの置き換えた後は、1982年以降に製造されたコメット(Comet)とよばれる平屋建て客車の置換えも進めていく計画です。
Source: NJ Transit, Bombardier
ポータルノースブリッジプロジェクト
ポータルノースブリッジプロジェクトは、北東回廊の要所であるニューアーク・ペンステーション〜ニューヨーク・ペンステーション間の老朽化した鉄道インフラの改修および複々線化を行う一大プロジェクト「ゲートウェイプログラム(The Gateway Program)」の一つとして位置づけられています。築110年になるポータルブリッジは、北東回廊の中でも1日約450本もの列車が行き交う過密区間に位置している鉄道架道橋で、船舶の航行のために多い時で1日数回の開閉作業が行われており、ダイヤ上のボトルネックとなっています。
新たに建設されるポータルノースブリッジは、船舶の航行の影響を受けない複線の鉄道橋として建設され、将来的にはポータルサウスブリッジも建設され同区間の複々線化が完了する予定です。
Source: Amtrak, Gateway Program
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