今年で開通150周年を迎えるボルチモア・ポトマックトンネル(Baltimore and Potomac Tunnel: B&P Tunnel)は、メリーランド州ボルチモアのペン・ステーション付近にある全長約2.3kmの鉄道トンネルで、北米最大の運行本数および旅客数を誇る都市間鉄道路線「北東回廊(Northeast Corridor)」に位置している重要な鉄道インフラです。しかし、同トンネルは老朽化が深刻なため、アメリカ連邦鉄道局(FRA)、メリーランド州交通局(MDOT)、アムトラック(Amtrak)の3者が協力して、B&Pトンネルに変わる新トンネルを建設するプロジェクト「B&Pトンネル移設プログラム(B&P Tunnel Replacement Program)」を進めています。
なお新トンネルの建設費用は、約60億ドル(約7,755億円)と見積もられており、そのうち47億ドル(約6,075億円)がインフラ投資・雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act)から支出される見込みとなっています。また残りの費用のうち、アムトラックが7億5,000万ドル(約967億円)、メリーランド州が4億5,000万ドル(580億円)を負担することで合意しており、費用調達の目処はほぼ立っている状態となっています。
Source: The White House、Amtrak、B & P Tunnel Replacement Program Q & A
B&Pトンネル移設プログラムとは
新トンネル建設の背景・目的
全長1.4マイル(約2.3km)のB&Pトンネルは、アムトラックおよび通勤鉄道(MARC)の旅客列車、さらに一部の貨物列車が使用する重要鉄道インフラで、同トンネルを通過する乗客は年間900万人とされています。現在同トンネルは深刻な老朽化が進んでおり、トンネル内部の腐食、漏水、剥落、地盤沈下などがみられ、最高速度も30mph(約48km/h)に制限されています。また、トンネルの両側が複々線区間であるのに対しトンネル内は複線となっていることから、北東回廊のニュージャージー州からワシントンD.C.までの区間において運行上最大のボトルネックとなっており、結果的に列車の遅延が常態化しています。
さらに、同トンネルにはバイパス路線がなく、万が一トンネルが使用できなくなった場合、同エリアの経済損失は計り知れないものになると予想されます。このような背景から、北東回廊の「安全性」「定時性」「信頼性」の向上、所用時間短縮、および輸送力増強を目的として、新トンネルが整備されることとなりました。
新トンネルのルート
新トンネルは全長2.03マイル(約3.3km)となり、現状のトンネルよりも大回りのループを描く形で建設されます。また、トンネル出入口付近の1.63マイル(約2.6km)の区間において軌道改良が実施されることとなっており、それに合わせてMARCのウェスト・ボルチモア(West Baltimore)駅も移設されます。これにより、同区間の制限速度が現状の30mph(約48km/h)から110mph(約177km/h)へと大幅に引き上げられる予定となっています。
整備イメージ
新トンネル建設のための環境アセスメントでは、4本の単線トンネルを建設し複々線として整備される想定でしたが、建設コスト削減および工期短縮を実現するため、2本の単線トンネルのみが先行整備されることとなりました。このため、当初想定よりも輸送力は落ちるものの、第1期で整備される2本の単線トンネルは、加速性能が良い旅客電車専用とすることでトンネル内の運用効率を上げることが可能となり、現状と比較しておよそ3倍の本数の列車の運行が可能となります。なお、週4本程度運行されている貨物列車は、新トンネル開通後も当面の間は既存のトンネルを使用し続けることになります。
こちらはペン・ステーション寄りの新トンネル入口付近のイメージです。現在は、同駅を出るとすぐに左に急カーブしてB&Pトンネルに入ることになりますが、新トンネル完成後は、しばらく直進したあとに続く緩やかにカーブによってトンネルへ入ることになります。なお、イメージでは4本の単線トンネルが描かれていますが、第一段階で整備されるのは上述のとおり2本のみとなります。
ウェスト・ボルチモア駅寄りの入口イメージです。こちらも緩やかなカーブとして整備されます。
新トンネルのウェスト・ボルチモア駅寄り入口付近には、新軌道を跨ぐ道路橋も新たに整備されます。
新トンネルの名称
新トンネルの名称は、メリーランド州出身で奴隷制度廃止運動家として知られるフレデリック・ダグラス(Frederick Douglass)の名にちなんで「フレデリック・ダグラス・トンネル(The Frederick Douglass Tunnel)」となります。
新トンネル開通後の効果
新トンネルが開通すると、同トンネルを通るアムトラックおよびMARCの旅客列車の所要時間短縮および大幅な増発が可能となります。例えば、ボルティモア・ペンステーション〜ワシントンD.C.ユニオン・ステーション間のMARC急行列車の所要時間は、現状の約45分から15分程度短縮され最短で30分となる予定です。また、常態化している同トンネル付近で発生する遅延についても大幅に解消される見通しです。
今後のスケジュール
新トンネルの建設に伴う関連工事はすでに着工しており、現在はトンネルを含む構造物の最終設計段階となっています。トンネルの掘削工事は2026年から開始される計画で、新トンネルの共用開始は2032年ごろと予定されています。なお、第2期として貨物列車にも対応した2本の単線トンネルを整備する計画がありますが、将来の需要に応じて対応するとしており、現段階においては具体的な時期は示されていません。
※1米ドル=129円として計算
コメントを残す