アムトラック(Amtrak)は22日、2023年度(2022年10月〜2023年9月)の利用状況などを取りまとめた予算概算要求 のための年次報告書を公開しました(General and Legislative Annual Report)。2023年度は、もともと鉄道利用が多いアメリカ北東部において、利用者数がコロナ前の2019年度と比較して9割以上まで回復したほか、ドル箱列車であるアセラの収益率がコロナ以降で初めて100%を超えるなど、比較的好調な結果となりました。一方で、それ以外の地域においては2019年度比で7〜8割程度の利用者数にとどまる結果となり、地域によって利用者数の回復傾向に大きな差が出る結果となりました。以下、2023年度のアムトラック利用者数トップ10を、駅、州、列車ごとに、さらに収支率トップ10を列車ごとにまとめました。
Source: Amtrak Reports & Documents
乗降客数トップ10の駅
2023年度にアムトラック乗降客数が最も多かった駅は、ニューヨーク・ペンステーション(モイニハン・トレインホール)で、2022年度と比較して128%増加し、コロナ以降初めて1,000万人の大台を突破しました。また、第2位のワシントンD.C.ユニオン・ステーション、第3位のフィラデルフィア30thストリート・ステーションについても、2022年度比1.3倍以上の増加となっており、コロナ前と比較して乗降客数が9割程度まで回復してきています。さらに、ボルチモア・ペンステーションなど北東回廊の主要駅の一部では、コロナ前の乗降客数を上回りました。一方で、北東回廊以外でトップ10にラインクインしているシカゴ・ユニオンステーションおよびロサンゼルス・ユニオンステーションについては、2022年度と比較して乗降客数が増加したものの、コロナ前と比較すると依然として7〜8割程度の回復にとどまっており、北東回廊とそれ以外の地域で乗降客数の回復速度に大きな差が出る結果となりました。
順位 (FY2023) | 駅名 | 乗降客数 (FY2023) | 前年比 (FY2022) | コロナ前比 (FY2019) |
---|---|---|---|---|
1 | ニューヨーク Moynihan Train Hall At Penn Station | 10,249,956 | 128% | 95% |
2 | ワシントンD.C. Union Station | 4,751,407 | 131% | 91% |
3 | フィラデルフィア William H. Gray III 30th Street Station | 4,197,176 | 137% | 93% |
4 | シカゴ Union Station | 2,722,448 | 115% | 82% |
5 | ボストン South Station | 1,538,648 | 126% | 97% |
6 | ボルチモア Penn Station | 1,081,133 | 129% | 104% |
7 | ロサンゼルス Union Station | 1,000,243 | 108% | 71% |
8 | ニューヘイブン Union Station | 792,634 | 128% | 102% |
9 | オールバニ・レンセリア Albany–Rensselaer | 790,673 | 123% | 98% |
10 | ボストン Back Bay | 750,036 | 124% | 104% |
Source: FY 2022 Company Profile, FY 2019 Company Profile
乗降客数トップ10の州
州別のアムトラック乗降客数は、トップ10にランクインした全ての州において2022年度と比較して増加しました。昨年度同様に北東回廊に位置する州から7州がランクインしており、これらの州においてはコロナ前と比較しておよそ9割以上まで回復しているほか、メリーランド州においてはコロナ前の乗降客数を僅かではありまずが上回る結果となりました。なお、州政府の支援により都市間列車の運行本数が大幅に増加したバージニア州では、昨年度に引き続き利用者の伸びが顕著となっています。一方で、北東回廊の都市間鉄道ネットワークに属さない州としてランクインしたカリフォルニア州およびイリノイ州においては、コロナ前の2019年度比7〜8割程度にとどまっています。
順位 (FY2023) | 州名 | 乗降客数 (FY2023) | 前年比 (FY2022) | コロナ前比 (FY2019) |
---|---|---|---|---|
1 | ニューヨーク New York | 12,502,114 | 126% | 96% |
2 | カリフォルニア California | 8,468,046 | 132% | 74% |
3 | ペンシルベニア Pennsylvania | 5,663,648 | 135% | 85% |
4 | コロンビア特別区 District of Columbia | 4,751,406 | 131% | 91% |
5 | イリノイ Illinois | 3,898,204 | 115% | 83% |
6 | マサチューセッツ Massachusetts | 3,375,480 | 126% | 98% |
7 | バージニア Virginia | 2,209,388 | 140% | 143% |
8 | メリーランド Maryland | 2,053,928 | 130% | 101% |
9 | コネチカット Connecticut | 1,808,204 | 125% | 99% |
10 | ニュージャージー New Jersey | 1,627,054 | 139% | 93% |
Source: FY2025 Grant Request, FY2024 Grant Request, FY 2021 Grant Request
利用者数トップ10の列車
アムトラックにおいて利用者が最も多い列車は北東回廊のノースイーストリージョナルで、2022年度比129%増のおよそ916万人が利用しました。第2位はおよそ296万人が利用した高速列車アセラで、昨年度と比較して138%増の利用者数となりました。なお、ノースイーストリージョナルはコロナ前の2019年度よりも利用者が増加していますが、アセラの利用者の回復が遅れていることから、新型アセラのデビューやビジネス需要の回復の遅れが影響しているものと思われます。その他の列車では、カナダへの直通運転再開および増発が実施されたカスケーズの利用者数の回復が顕著となっています。一方で、地滑りなどの影響による長期運休などが影響したパシフィックサーフライナーについては、昨年度よりも利用者が減少する結果となりました。コロナ前との比較では、北東回廊を除いて依然として5〜8割程度の回復率にとどまっていることから、北東回廊以外での利用者の回復が望まれるところです。
順位 (FY2023) | 列車名 | 主な運行区間 | 利用者数 (FY2023) | 前年比 (FY2022) | コロナ前比 (FY2019) |
---|---|---|---|---|---|
1 | ノースイースト・リージョナル Northeast Regional | ボストン〜ワシントンD.C. | 9,162,381 | 129% | 102% |
2 | アセラ Acela | ボストン〜ワシントンD.C. | 2,959,382 | 138% | 83% |
3 | パシフィック・サーフライナー Pacific Surfliner | ロサンゼルス〜サンディエゴ | 1,516,667 | 93% | 55% |
4 | エンパイア・サービス* Empire Service | ニューヨーク〜オールバニ | 1,245,553 | 122% | 103% |
5 | キーストーン Keystone | ニューヨーク〜ハリスバーグ | 1,106,313 | 137% | 70% |
6 | キャピトル・コリドー Capitol Corridor | オーバーン〜サンノゼ | 905,401 | 134% | 51% |
7 | サン・ホアキン San Joaquins | オークランド/サクラメント〜ベーカーズフィールド | 846,869 | 119% | 79% |
8 | カスケーズ Cascades | バンクーバー〜シアトル〜ポートランド〜ユージーン | 668,360 | 171% | 81% |
9 | ハイアワサ Hiawatha | シカゴ〜ミルウォーキー | 634,977 | 127% | 72% |
10 | ダウンイースター Downeaster | ボストン〜ブランズウィック | 539,935 | 121% | 97% |
*ニューヨーク〜オールバニ間
Source: FY2025 Grant Request, FY2024 Grant Request, FY 2021 Grant Request
収支率トップ10の列車
2023年度において収支率トップ10にランクインした列車は、北西部の都市を結ぶカスケーズを除いて全て北東回廊を起点とする列車となりました。アセラの収支率がコロナ以降で初めて100%を上回り、アムトラックの収支率トップ列車に返り咲いたほか、昨年度に続きノースイーストリージョナルおよびオート・トレインの収支率が100%を上回りました。しかし、ドル箱列車アセラのコロナ前の収支率は200%を超えていたため、本格的な回復とまでは言えないのが現状です。また、利用者数の増加が顕著であるバージニアサービスの収支率は依然として60%程度で推移しています。なお、収支率トップ10にランクインした列車のうち、トップ3以下は全て赤字(州政府からの補助金を差し引いた場合)となっており、アメリカの都市間列車の置かれた環境の厳しさが伺えます。
順位 (FY2023) | 列車名 | 収支率* (FY2023) | 収支率* (FY2019) |
---|---|---|---|
1 | アセラ Acela | 125% | 202% |
2 | ノースイースト・リージョナル Northeast Regional | 115% | 150% |
3 | オート・トレイン Auto Train | 114% | 92% |
4 | エンパイア・サービス Empire Service | 92% | – |
5 | カロリニアン Carolinian | 73% | 94% |
6 | パルメット Palmetto | 64% | 79% |
7 | バージニアサービス・ロアノーク VA Service: DC-Roanoke | 62% | 139% |
8 | バージニアサービス・ニューポートニューズ VA Service: DC-Newport News | 58% | 117% |
8 | バージニアサービス・ノーフォーク VA Service: DC-Norfolk | 58% | 111% |
10 | カスケーズ Cascades | 56% | 61% |
エンパイア・サービスの2019年度収支率は対象区間が異なり比較できないため省略
*州からの補助金を受けて運行している列車は補助金を差し引いた収支率を表示
Source: FY2025 Grant Request, FY 2021 Grant Request
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