ノースカロライナ州第二の都市ローリー(Raleigh)と同州最大の都市シャーロット(Charlotte)の間は、アメリカ合衆国運輸省によって「南東高速鉄道回廊(Southeast High Speed Rail Corridor: SEHSR)」に指定されている区間となっています。これまでに同区間では、複線化工事や路線改良などを中心とした「ピードモント改良プログラム(Piedmont Improvement Program: PIP)」が実施され、同事業の整備が完了した2018年以降は、アムトラックの都市間列車「ピードモント(Piedmont)」が増発され、所要時間も短縮されました。同区間では今後、ワシントンD.C.からローリーまでの区間で進められているSEHSRの整備に合わせて、段階的に輸送力増強や高速化などが実施される予定となっています。
Source: NCDOT、Southeast Corridor Commission
PIPの概要
背景
ワシントンD.C.よりも南に位置するアメリカ南東部の鉄道路線は、貨物列車の運行が中心の非電化路線となっており、最高時速200km以上で走行可能な都市間列車が多く運行されている「北東回廊(Northeast Corridor)」とは対照的に、都市間列車への大規模投資が実施されてきませんでした。しかし、1990年代以降になるとワシントンD.C.からシャーロット(のちにアトランタやジャクソンビルまで拡大)までの区間が南東高速鉄道回廊として指定され、高速都市間移動手段に関する環境アセスメントが開始されました。
その結果、ワシントンD.C.からシャーロットまでの区間については、既存インフラの改良を軸に都市間列車の輸送力増強および速度向上を実施することによって、高速都市間移動手段の整備を実施することになりました。このうちローリーからシャーロットまでの区間においては、2009年から2018年にかけて「ピードモント改良プログラム(Piedmont Improvement Program: PIP)」が実施されました。
整備ルートおよび目的
PIPは、在来線の改良によって整備が進められているSEHSRのワシントンD.C.からシャーロットまでの450マイル(約724km)の区間のうち、ローリーからシャーロットまでの全長175マイル(約282km)の区間が対象のプロジェクトです。同プロジェクトは、ノースカロライナ州の主要都市であるシャーロットとローリーの間の都市間移動需要および貨物需要の拡大、さらに将来のSEHSRを見据えた列車増発に対応するため、同区間の安全性向上、列車増発および所要時間短縮を目的として実施されました。
事業内容
PIPでは、27マイル(約43km)の単線区間が残っていたグリーンズボロ(Greensboro)からシャーロットまでの全区間の複線化、一部区間の立体交差化などによる合計40ヶ所の踏切の撤去、線形改良や高速分岐器への切り替えによる最高速度79mph(約127km/h)区間の拡大、主要駅舎の改良などが実施されました。さらに、貨物列車と旅客列車の待避がスムーズに行えるよう、ローリー・グリーンズボロ間では5マイル(約8km)の待避線も新たに建設されました。
PIPによるローリー〜シャーロット間の都市間列車増発および所要時間短縮
PIPの整備が完了した2018年以降、ノースカロライナ州の補助金によって運行されているアムトラックの都市間列車「ピードモント」が1日3往復運行になったほか、平均最高速度の向上により同区間の所要時間が13分短縮されました。また、同区間ではピードモントのほかに、ニューヨークとシャーロットを結ぶ中距離列車「カロリニアン」が1往復運行されており、現在、同区間の都市間列車は1日4往復体制となっています。
列車名 | 運行区間 | 運行本数 | 最短所要時間 | 車での所要時間 |
---|---|---|---|---|
ピードモント/カロリニアン Piedmont / Carolinian | ローリー〜シャーロット | 4往復* | 03:10 | 02:20〜03:00 |
ワシントンD.C.〜ローリー間で進められている高速化事業完了後の列車運行パターン
SEHSRのうち、ワシントンD.C.からローリーの間で進められている都市間鉄道高速化プロジェクトが完了すると、ニューヨーク・ワシントンD.Cからシャーロットまでを結ぶ都市間列車の増発や所要時間の短縮が可能となる予定です。これにより、同プロジェクトの整備が完了する予定の2030年ごろには、北東回廊からSEHSR経由でシャーロットまで直通する列車が新たに3往復設定される予定です。また、ローリー・シャーロット間の都市間列車「ピードモント」の増発(1日4往復化)が2023年中に計画されており、これらの列車を合わせると、1日8往復の都市間列車が同区間で運行されることになります。
運行区間 | 運行本数 (2023年時点) | 運行本数 (2030年以降) | 所要時間** (2030年以降) |
---|---|---|---|
ローリー〜シャーロット Union Station – Charlotte | 3往復 | 4往復 | 02:49 |
ニューヨーク〜シャーロット* Union Station – Charlotte | 1往復 | 4往復 | 10:16 |
**R2R Final EISで示されているSEHSR経由での所要時間
使用車両
ニューヨークとシャーロットを結んでいるカロリニアンには、2026年にデビューを予定しているシーメンス製の新型車両「アムトラック・アイロ(Amtrak Airo)」の導入が予定されています。アムトラック・アイロは、電化区間である北東回廊と非電化区間であるワシントンD.C.以南を、機関車の交換なしに直通運転できる設計となっているほか、最高速度200km/hでの運転にも対応した車両となります。なお、北東回廊からシャーロットまでを結ぶ3往復のSEHSR新設列車に使用される車両についても、スペック的にみて同車両の導入を想定しているものと思われます。
今後の予定
ローリー・シャーロット間はSEHSRに指定されていますが、現在のところPIP以外の都市間列車高速化計画は具体化していません。しかし、現在ワシントンD.C.・ローリー間で進められている都市間鉄道の高速化事業が進み、ジョージア州が中心となって進めているアトランタ・シャーロット間の高速鉄道整備計画の方向性が決まると、ローリー・シャーロット間の更なる高速化などが検討されていくものと思われます。
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