アメリカ南東部の都市間鉄道高速化プロジェクト(リッチモンド〜ローリー編)

バージニア州の州都リッチモンド(Richmond)からノースカロライナ州第二の都市ローリー(Raleigh)を結ぶ区間は、アメリカ合衆国運輸省によって「南東高速鉄道回廊(Southeast High Speed Rail Corridor: SEHSR)」に指定されています。同区間では、バージニア州旅客鉄道局(Virginia Rail Passenger Authority)およびノースカロライナ州交通局(N.C. Department of Transportation)が中心となって、現在使用されていない貨物線などを活用した高規格都市間鉄道路線の整備事業「R2R(Richmond to Raleigh Southeast High Speed Rail)」が計画されています。同プロジェクトが完了すると、リッチモンドからローリーの間の所要時間が1時間20分程度短縮されるほか、アメリカ南東部(フロリダ州を除く)において初となる最高速度110mph(177km/h)に対応した鉄道路線が誕生することになります。

Source: R2R SEHSR Final EISNCDOTTransforming Rail in VirginiaSoutheast Corridor Commission

R2Rの概要
背景

ワシントンD.C.よりも南に位置するアメリカ南東部の鉄道路線は、貨物列車の運行が中心の非電化路線となっており、最高時速200km以上で走行可能な都市間列車が多く運行されている「北東回廊(Northeast Corridor)」とは対照的に、都市間列車への大規模投資が実施されてきませんでした。しかし、1990年代以降になるとワシントンD.C.からシャーロット(のちにアトランタやジャクソンビルまで拡大)までの区間が南東高速鉄道回廊として指定され、高速都市間移動手段に関する環境アセスメントが開始されました。

Image: Transforming Rail in Virginia

その結果、ワシントンD.C.からシャーロットまでの区間については、既存インフラの改良を軸に都市間列車の輸送力増強および速度向上を実施することによって、高速都市間移動手段の整備を実施することになりました。R2RはSEHSRのうち、リッチモンドからローリーまでの区間で進められているプロジェクトとなります。

リッチモンド〜ローリー間を走る都市間列車
2018年に改築を終えモダンな駅舎に生まれ変わったローリー・ユニオン・ステーション
Image: Art Howard

現在、リッチモンドからローリーの間では、アムトラックのニューヨーク発着中距離列車「カロリニアン」と長距離列車「シルバー・スター」が1日各1往復ずつ運行されています。

列車名運行区間運行本数
カロリニアン
Carolinian
ニューヨーク〜シャーロット1往復
シルバー・スター
Silver Star
ニューヨーク〜マイアミ1往復

しかし、これらの都市間列車は、同区間を直線ルートで結ぶ鉄道路線が存在しないため、大回りのルートをとおる貨物線「A Line」を経由して運行されており、自動車よりも所要時間が1時間以上多くかかっています。そのため、同区間の都市間移動は所要時間も利便性も高い自動車での移動が圧倒的に有利な状況となっています。

区間所要時間車での所要時間*
ニューヨーク〜ローリー09:55〜09:5707:20〜09:30
ワシントンD.C.〜ローリー05:53〜06:1404:00〜05:10
リッチモンド**〜ローリー03:34〜03:4602:30〜03:10
*Google Mapでの平均所要時間(鉄道駅間の所要時間)
**ステープルズ・ミル駅からの所要時間
整備ルートおよび目的

R2Rは、在来線の改良によって整備が進められているSEHSRのワシントンD.C.からシャーロットまでの450マイル(約724km)の区間のうち、リッチモンドからローリーまでの全長162マイル(約260km)の区間が対象となります。

Image: NCDOT

R2Rでは、SEHSRの整備にあたって重要な区間となるリッチモンド〜ローリー間の所要時間を短縮するため、両都市を現在よりも直線的なルートで結んでいる「S-Line」と呼ばれる貨物線(一部廃線区間を含む)に、最高速度110mph(177km/h)で走行可能な高規格線路を整備する予定です。S-Lineの高規格化に先立ち、バージニア州およびノースカロライナ州は、ピーターズバーグ(Petersburg)からローリーまでの区間の優先通行権(ROW)を、貨物鉄道会社「CXSトランスポーテーション」からすでに取得しています。

各区間ごとの事業内容
Image: R2R Final EIS
リッチモンド〜セントラリア

リッチモンド〜セントラリア(Centralia)のおよそ11マイル(18km)の区間は、現在複線区間となっています。R2Rでは、同区間の上下線の線路を改良し、最高速度は79mph(約127km/h)対応の区間とします。また、新たな分岐器を設置することで貨物列車との行き違いができるようにします。

セントラリア〜コリアー

セントラリア〜コリアー(Collier)までのおよそ18マイル(約29km)の区間は、現在単線区間となっています。同区間では、既存の単線線路に並行する形で新たな単線高規格線路が整備されます。また、貨物列車との行き違いができるよう新たな分岐器も設置されます。なお、改良後の同区間の最高速度は90mph(145km/h)となります。

コリアー〜ノリナ

コリアーからノリナ(Norlina)までの73マイル(約117km)の区間は、現在廃線となっている貨物跡に、新たに最高速度110mph(177km/h)に対応する単線高規格線路が整備されます。また、貨物列車の走行も想定されているため、約10マイル(約16km)ごとに長さ5マイル(8km)の待避線が整備されます。さらに、バージニア州ラ・クロス(La Crosse)付近に新駅の設置計画もあります。

ノリナ〜ローリー

ノリナからローリーまでのおよそ60マイル(約97km)の区間は、現在1日に数本の貨物列車のみが使用する単線区間となっています。この区間では、現在の単線線路を最高速度110mph(177km/h)対応の高規格線路へと改良し、コリアー〜ノリナ間同様に約10マイル(約16km)ごとに長さ5マイル(8km)の待避線が整備されます。また、ノースカロライナ州ヘンダーソン(Henderson)付近に新駅の設置計画があります。

R2R整備後の列車運行パターン
Image: R2R Final EIS

R2Rの整備が完了すると、リッチモンドからローリーの所要時間が1時間20分程度短縮されることになります。これによって新たに創出される都市間移動需要に対応するため、北東回廊からSEHSR経由でローリーまで直通する列車が新たに4往復(うち3往復はシャーロットまで運行)設定される予定です。また、現行のニューヨークとマイアミを結ぶ長距離列車「シルバー・スター」もSEHSR経由での運行とすることで、リッチモンドとローリーを2時間台前半で結ぶ都市間列車が1日あたり5往復設定されることになります。

運行区間運行本数
(2023年時点)
運行本数
(R2R整備完了後)
所要時間
現行ルート経由リッチモンド*〜ローリー
Main Street – Union Station
2往復1往復03:26
SEHSR経由リッチモンド*〜ローリー
Main Street – Union Station
5往復02:14
*ニューヨークまたはボストンが始発
使用車両
Image: Amtrak

R2Rの整備によって設定される4往復のSEHSR新設列車に使用される車両については、現時点において正式な発表はありません。ただ、2026年にデビューを予定しているシーメンス製の新型車両「アムトラック・アイロ(Amtrak Airo)」は、電化区間である北東回廊と非電化区間であるワシントンD.C.以南を、機関車の交換なしに直通運転できる設計となっているほか、最高速度200km/hでの運転にも対応する予定のため、スペック的にみて同車両の導入を想定しているものと思われます。

今後の予定

R2Rは現在、バージニア州旅客鉄道局(Virginia Passenger Rail Authority: VPRA)が2020年に発足した「バージニア鉄道改造イニシアチブ(Transforming Rail in Virginia)」、およびノースカロライナ州交通局によって、予算確保に向けた手続きなどが進められています。

Image: Transforming Rail in Virginia

2023年中には、着工に向けた初期段階の設計が開始される予定となっており、2024〜27年にかけて最終設計を完了、その後着工という流れになる予定です。また、SEHSRのシャーロット以南の区間の整備状況に合わせて、段階的に輸送力増強や電化による速度向上などを図っていくことも想定されており、長期的に、SEHSRの重要な区間としての役割を果たしていく予定です。

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