アムトラック(Amtrak)は、今年初めに2035年を目標に路線網を大幅に拡大する計画「コネクトUS(Connects US)」を打ち出しました。計画の中で特に注目すべき点は、アトランタ、ヒューストン、フェニックス、デンバーなど、近年急速に発展している都市圏をハブとする新たなインターシティ(都市間連絡)列車を設定することが挙げられていることです。これまでアムトラックのインターシティ列車は、人口密集地域であるニューヨーク周辺の北東回廊(Northest Corridor)、シカゴ周辺の中西部、西海岸の大都市を中心に設定されてきました。今回は、コネクトUSのうちテキサスの4大都市圏を結ぶ新設列車計画について見ていきます。
中央回廊(Central Corridor)の計画ルートマップ
2021年現在、テキサスの各都市を発着するアムトラック列車は、シカゴ〜ダラス〜フォートワース〜オースティン〜サンアントニオ間を1日1往復運行している長距離列車「テキサス・イーグル(Texas Eagle)」、ニューオーリンズ〜ヒューストン〜サンアントニオ〜ロサンゼルス間を週3往復運行する長距離列車「サンセット・リミテッド(Sunset Limited)」があります。その他、フォートワース〜オクラホマシティを結ぶ「ハートランド・フライヤー(Heartland Flyer)」が1日1往復運行しています。
主要都市の人口
都市 | 推計人口 (2019年) | 人口増加率 (2010〜2019年) | 人口密度 (人/平方マイル) |
---|---|---|---|
ヒューストン市 (Houston) | 2,320,268 | 10.7% | 3,502 |
ダラス市 (Dallas) | 1,343,573 | 12.2% | 3,518 |
フォートワース市 (For Worth) | 909,585 | 22.1% | 2,181 |
サンアントニオ市 (San Antonio) | 1,547,253 | 16.7% | 2,880 |
オースティン市 (Austin) | 978,908 | 22.1% | 2,653 |
米国統計局によると、テキサス州の主要5都市における2019年7月1日時点の推計人口は上記のとおりであり、いずれの都市においても2010年と比較して10%以上増加しています。さらに、これらの主要都市の周辺でも同じように人口が増加しており、この傾向は今後も継続するとみられています。
上のマップは少し古いデータですが、2010年のテキサス4大都市圏における人口密度(人/平方マイル)に現在のアムトラックルートを重ねたものです。現在のアムトラックルートの週辺にはそれなりの人が住んでいることがわかりますが、長距離列車のみの運行でテキサス内のインターシティ列車は事実上ありません。
主要都市間の移動需要
テキサスセントラルによると、ダラス〜ヒューストン間の移動需要は年間平均約1,400万回程度あると推測されています。つまり、1日の平均移動需要は38,000回程度あるという計算になります。移動目的は、約半数が家族、友人などとの交流、約2割がビジネス、その他が旅行、イベント、ショッピングなどとなっています。また、これらの移動者の約9割が陸路(自動車、バス含む)、残りが空路を利用しています。その他の主要都市間の移動需要については具体的なデータは見つけられませんでしたが、人口規模や都市間距離からしてそれなりの移動需要があると思われます。
アムトラック列車の想定所要時間
上の表はテキサス州の4大都市圏であるダラス・フォートワース、ヒューストン、オースティン、サンアントニオ(これらの都市圏の位置関係からテキサストライアングルと呼ばれる)を結ぶインターシティ列車設定計画を抜粋したものです。アムトラックの計画では、いずれの列車も速達性では自動車よりも1時間以上劣っています。
運行本数
どの区間の列車も速達化は想定されていないため自動車からシェアを奪うことは非常に難しいと思われます。アムトラックの計画ではどの区間も1日2〜3往復のみの運行を想定しているようです。
使用車両
アムトラックの列車は北東回廊の列車を除いて全て非電化区間を走っています。1日3往復程度の運行であれば電化するとコストが合わないので、使用される車両は現状のディーゼル機関車で客車を牽引する方式か、電気式ディーゼル車両を新たに導入するかのいずれかになると思われます。電気式ディーゼル車両の場合は、2024年から導入が予定されているシーメンス製の車両が投入されるかもしれません。
ダラス・ヒューストン間の高速鉄道計画との連携
ダラス〜ヒューストン間には、テキサスセントラル(Texas Central)が進めているテキサス高速鉄道計画が進行中です。テキサス高速鉄道は、計画通りに進めば2025年に完成し両都市を最速90分で結ぶ予定となっています。そのため、アムトラックはテキサス高速鉄道とインターシティ列車の連携も検討するとしています。
ダラス・ヒューストン間に限らず、テキサスの全ての都市ではスプロール現象が進んでいます。そのため、最終目的地までのラストマイルモビリティの解決やサービスの差別化が利用客の定着には必要不可欠です。アムトラックがこれらの問題にどこまで対応できるかがテキサストライアングル列車構想の成功の鍵を握っているといえます。
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