2024年版、アメリカの鉄道はこうなる!

暫くの間更新が滞ってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます。2023年は、フロリダ州を走るブライトライン(Brightline)のオーランド延伸区間の開通によって、民間資本を活用したプロジェクトとしては米国初となる高速鉄道路線が誕生したことにより、車社会のアメリカにおいて都市間鉄道の役割が見直されるきっかけが生まれた年となりました。また、年末にはカリフォルニア高速鉄道や、ラスベガスとロサンゼルス郊外を結ぶブライトライン・ウェストといった高速鉄道プロジェクトに対して、過去最大規模となる連邦政府補助金が割り当てられることが正式に発表され、アメリカにおけるフルスペック高速鉄道の整備がより現実味を帯びてきた年でもありました。一方で、営業運転開始時期が当初予定よりも大幅に遅れている北東回廊の新型高速電車「アセラ」については、コンピューターモデルによる安全性検証の遅れや、量産された車両に欠陥が見つかったことで、営業運転開始が再延期されることとなりました。

9月に電化開業が予定されているカルトレインに投入される新型電車

今年は、将来的にカリフォルニア高速鉄道が乗り入れる予定のカルトレイン電化事業(第1期)が開業する予定のほか、実現すればアメリカ初のフルスペック高速鉄道となる「ブライトライン・ウェスト」が着工されるのかが注目されそうです。車両面では、営業運転開始が大幅に遅れているアムトラックの新型アセラや、各都市の地下鉄や通勤鉄道で導入が予定されている新型車両が、今年こそデビューを果たせるのかについても注目されます。それでは、2024年にアメリカで開業が予定されている鉄道プロジェクト、新型車両のデビュー予定についてリストアップしましたので、早速みていきましょう!

2024年に開業予定の鉄道プロジェクト
Tri-Rail、ダウンタウン・マイアミリンクが開業

開業時期:1月13日
エリア:フロリダ州マイアミ都市圏

Image: Tri-Rail

マイアミとウェストパームビーチなどを結ぶ通勤鉄道「Tri-Rail」を、マイアミ・セントラル駅まで延伸するプロジェクト「ダウンタウン・マイアミリンク(Downtown Miami Link: TRDML)」が1月13日に開業する予定です。これにより、Tri-Rail沿線からダウンタウンまでが直通でアクセスできるようになるほか、ブライトライン(Brightline)への接続も可能となります。なお同プロジェクトは、2023年中に開業する予定でしたが、開業時期が延期されていました。

バレーメトロレール、第2期北西部延伸区間が開業

開業時期:1月27日
エリア:アリゾナ州フェニックス都市圏

バレーメトロレール初となる高架駅の完成イメージ
Image: Valley Metro Rail

アリゾナ州最大の都市フェニックスの市内を走るライトレール「バレーメトロレール(Valley Metro Rail)」の「第2期北西部延伸プロジェクト(Northwest Extension Phase II)」が1月27日に開業します。同プロジェクトの完成によって、「19thアベニュー・ダンラップ(19th Ave/Dunlap)」駅から延伸される約1.6マイル(約2.6km)の区間に3つの新駅が誕生することになります。なお、新たな起点駅となる「メトロパークウェイ(Metro Parkway)」駅は、バレーメトロでは初めての高架駅となります。同プロジェクトは、当初2026年開業予定とされていましたが、フェニックスの2050年交通計画においてライトレールの整備を加速することが決定されたため、2年前倒しで開業することとなりました。

サウンドトランジット、東部・リンク延伸プロジェクトが部分開業

開業時期:春以降
エリア:ワシントン州シアトル都市圏

駅設備等はすでに完成しているサウスベルビュー駅

アメリカ西海岸北部シアトル都市圏の公共交通を運行する「サウンドトランジット(Sound Transit)」のライトレール路線「リンク(Link)」を、ベルビュー(Bellevue)およびレドモンド(Redmond)方面へ延伸する「イースト・リンク・延伸プロジェクト(East Link Extension)」のうち、「レドモンド・テクノロジー(Redmond Technology)」駅〜「サウス・ベルビュー(South Bellevue)」駅間が部分開業する予定です。なお、同延伸区間は新路線「2ライン( 2 Line)」として運行されます。同路線は、当初シアトル・ダウンタウンからレドモンド・テクノロジー駅までの区間が2023年中に開業する予定でしたが、ワシントン湖上の浮橋を含む区間に敷設された軌道に施工ミスが発覚したため、シアトル・ダウンタウンからサウス・ベルビューまでの区間の開業時期が大幅に遅れることになりました。なお、2ラインのシアトル・ダウンタウンへの直通が実現するのは2025年以降となる予定です。

カルトレイン、サンフランシスコ・サンノゼ間が電化開業

開業時期:9月
エリア:カリフォルニア州ベイエリア

電化工事が進むカルトレインの軌道

カリフォルニア州ベイエリアの通勤鉄道「カルトレイン(CalTrain)」は、サンフランシスコの起点である「4th・キングストリート(4th King Street)」駅から「サンノゼ・ディリドン(San Jose Diridon)」駅までの区間において電化事業を進めており、2024年9月の開業を予定しています。同鉄道には将来のカリフォルニア高速鉄道の乗り入れが予定されており、今回の電化事業は同高速鉄道の実現においても重要なマイルストーンとなります。なお、電化開業後は同鉄道が保有する車両の約75%が新型電車に置き換えられる予定です。

サウンドトランジット、リンウッド・リンク延伸プロジェクトが開業

開業時期:秋以降
エリア:ワシントン州シアトル都市圏

シアトル北部に位置するリンウッドまで延伸される予定のリンク1ライン

サウンドトランジットが運行するライトレール路線「リンク(Link)」の「1ライン(1 Line)」を、さらに北へ延伸してリンウッド(Lynnwood)」まで延伸する「リンウッド・リンク延伸プロジェクト(Lynnwood Link Extension)」が、2024年秋以降に開業する予定です。なお、同延伸区間は当面の間、既存路線「1ライン( 1 Line)」として運用されますが、2025年以降に予定されている2ラインのシアトル・ダウンタウンへの延伸が実現すると、1ラインおよび2ラインの列車が乗り入れる区間となる予定です。

ロサンゼルス国際空港の新交通システムが開業

開業時期:秋以降
エリア:カリフォルニア州ロサンゼルス都市圏

Image: LAWA

アメリカ西海岸を代表する空の玄関口「ロサンゼルス国際空港(LAX)」に、各ターミナルとLAメトロの新駅(LAX/Metro Transit Center駅)、レンタカー施設などを直結する新交通システム(LAX Automated People Mover )が開業する予定です。同システムは、LAメトロの新駅開業よりも一年程早い2023年中の開業が予定されていましたが、開業時期が遅れたことで、LAメトロの新駅「LAX・メトロトランジットセンター(LAX/Metro Transit Center)」と同時期の開業となる可能性があります。

LAメトロ、Kラインの未開通区間およびLAX・メトロトランジットセンターが開業

開業時期:2024年末
エリア:カリフォルニア州ロサンゼルス都市圏

LAX・メトロトランジットセンター駅の完成イメージ
Image: LA Metro

LAメトロ(LA Metro)Kラインは、Eライン(旧エキスポライン)との接続駅である「エキスポ・クレンショー(Expo/Crenshaw)」駅から「ウェストチェスター・ベテランズ(Westchester/Veterans)」駅までの区間が2022年10月に暫定開業しました。2024年には、未開業区間であるウェストチェスター・ベテランズ駅からCラインへ接続する「アビエーション・センチュリー(Aviation/Century)」駅までの区間が開業する予定です。また、同区間にはロサンゼルス国際空港で建設中の新交通システムとの接続駅となる「LAX・メトロトランジットセンター(LAX/Metro Transit Center)」駅も含まれており、同空港への交通アクセスの向上が期待されています。

バレーメトロレール、南中央部延伸・ダウンタウンハブプロジェクトが開業

開業時期:詳細時期未定
エリア:アリゾナ州フェニックス都市圏

バレーメトロレールのシーメンス製新型車両S700形
Image: Valley Metro Rail

バレーメトロレールの「南中央部延伸・ダウンタウンハブ(South Central Extension/Downtown Hub)プロジェクト」が2024年中に開業する予定です。同プロジェクトの開業によって、ダウンタウン・フェニックスから「ベースライン・セントラルアベニュー(Baseline/Central Avenue)駅」までの約4.9マイル (約7.9 km)の延伸区間が整備され、合計7つの新駅が誕生することになります。なお、新たに整備される延伸区間は、ベースライン・セントラルアベニュー駅からダウンタウンを経由してメトロパークウェイ駅までを結ぶ新系統として運行される予定です。

2024年にデビュー予定の新型車両
スタテンアイランド鉄道、R211S形が運行開始

デビュー時期:春以降
エリア:ニューヨーク州ニューヨーク都市圏

ニューヨーク市地下鉄で導入が進む新型車両「R211形」のスタテンアイランド鉄道版となる「R211S形」
Image: MTA

昨年からニューヨーク地下鉄(New Yorok City Subway)A系統で営業運転が開始された最新車両「R211形」が、スタテンアイランド鉄道(Staten Island Railway: SIR)においても運行開始される予定です。同鉄道向けには合計75両のR211S形が導入される予定で、今後、旧型車両のR44形を全て置き換える計画です。なお、スタテンアイランド鉄道向けを含むR211形は、川崎車両の米国現地法人「Kawasaki Rail Car Inc」によって最大1,612両が製造される予定となっています。

カルトレイン、新型2階建電車(KISS160)の営業運転を開始

デビュー時期:9月
エリア:カリフォルニア州ベイエリア

カルトレインのサンフランシスコ〜サンノゼ間の電化開業に合わせて、シュタッドラー・レール(Stadler Rail)製の新型2階建通勤電車が9月にデビューする予定です。同車両は、設計最高速度が110mph(約180km/h)となっているなど、将来、カルフォルニア高速鉄道と線路を共用することを前提とした様々な準備工事が施されており、非常にハイスペックな通勤車両となっているのが特徴です。

アムトラック、新型アセラが運行開始

デビュー時期:詳細未定(再延期の可能性あり)
エリア:アメリカ北東部、北東回廊

デビューが大幅に遅れているアセラのアルストム製新型車両
Image: Amtrak

2021年のデビュー予定からおよそ3年遅れとなっていますが、アムトラックのフラッグシップ列車である「アセラ(Acela)」に、フランスの次世代TGV車両をベースとしたアルストム製新型車両「アヴェリア・リバティ(Avelia Liberty)」の導入が予定されています。昨年発覚した数々の問題により、再度延期される可能性があるようですが、無事にデビューすることができればアムトラックの新時代の幕開けにふさわしい新車両が誕生することになります。

SEPTA、新型二階建て車両が営業運転を開始

デビュー時期:詳細未定(再延期の可能性あり)
エリア:ペンシルバニア州フィラデルフィア都市圏

Image: SEPTA

パンデミック、品質問題などの影響で導入が大幅に遅れている南東ペンシルバニア交通局(SEPTA)向け新型二階建て車両については、現在のところ2024年から営業運転が開始される見込みとされています。新型車両は、マサチューセッツ州にある中国の車両メーカーCRRCの工場で製造される予定です。

LAメトロ、新型地下鉄車両HR4000形の営業運転を開始

デビュー時期:詳細未定(再延期の可能性あり)
エリア:カリフォルニア州ロサンゼルス都市圏

Image: LA Metro

LAメトロのB、Dライン向け新型車両「HR4000形」は、当初2021年ごろのデビューが予定されていましたが、大幅な遅れが生じており、現在の営業運転開始時期は2024年以降とされています。昨年には、量産先行車両の二編成がLAメトロに納車されており、12月より試運転を開始しました。現在のところ、同新型車両の導入完了時期は当初計画よりも5年遅れの2026年となっています。

ボルチモアメトロ、新型地下鉄車両の営業運転を開始

デビュー時期:詳細未定
エリア:メリーランド州ボルチモア都市圏

Image: Hitachi Rail

メリーランド州ボルチモアの地下鉄路線「メトロサブウェイリンク(Metro SubwayLink)向け新型車両は、2021年ごろのデビューが予定されていましたが、現在は2024年からの営業運転開始となっており、昨年に車両製造メーカーである日立レールのマイアミ工場で製造された第一編成が納車されました。同新型車両は、合計78両が2026年までに導入される予定です。

2024年に着工予定の大規模プロジェクト
ブライトラインウェスト、ラスベガス〜ランチョクカモンガ間を着工

着工時期:2024年前半
エリア:ネバダ州、カリフォルニア州南部

今年初めの着工が見込まれているブライトラインウェストの駅
Image: Brightline West

ブライトラインウェストは、ラスベガスとロサンゼルスを結ぶ民間による高速鉄道計画です。このうち、ラスベガスからロサンゼルス郊外の都市ランチョクカモンガ(Rancho Cucamonga)までの区間の着工が予定されています。今年初めの着工が実現すると、カリフォルニア高速鉄道の先行開業時期よりも早い2028年頃の開業が見込まれているため、全区間が高速鉄道専用線として建設される北米初のフルスペック高速鉄道となる可能性があります。

まとめ

以上、2024年のアメリカの鉄道の動向について思いつく範囲でリストアップしてみましたが、いかがでしたでしょうか。今年は、ブライトライン・ウェストの着工がようやく実現するのかが注目されるほか、営業運転開始が大幅に遅れている新型車両の動向も引き続き注目されます。また、昨年末にインフラ投資・雇用法から連邦政府補助金を獲得した数々の鉄道プロジェクトについても、今後、具体的な動きがあるかについて注目していきたいと思います。それでは、2024年もアメリカの公共交通関連の話題を中心に情報を発信していきますので、今年も「DenshaDex」をどうぞ宜しくお願いいたします。

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“2024年版、アメリカの鉄道はこうなる!” への2件のフィードバック

  1. 戸田功一のアバター
    戸田功一

    きょう2024/2/3のniftyのヘッドのニュースに「米国フロリダ州の新高速鉄道の運賃が高額で時速も低く、開業から事故の死亡者数が多いことから市民から不満の声が上がっている。」記事があり建設メーカーが気になってみました。日本メーカーではないようですね。”米国フロリダ州の新高速鉄道”で検索したら美しい車両写真満載のDenshaDexのサイトを見つけました。
    JR東海やJR東日本のアメリカ東部や西部の建設計画の程度の認識でしたが、すでに多くの列車が走っているのですね。2024以降の営業開始計画も多くあることを知りました。アメリカ全土で高速鉄道への意識の高まりを改めて認識しました。

    1. DenshaDexのアバター

      コメントありがとうございます。アメリカの鉄道に関する情報サイトとしてDenshaDexが少しでもお役にたてて幸いです。フロリダのブライトラインは、開業以来、踏切内で鉄道車両と車が衝突する事故が多く発生しており、多くの場合、鉄道に不慣れな住民が踏切を無謀に横断しようとしたことに起因しているようです。鉄道会社としても、地道な周知活動などによって事故を減らそうとしてるようですが、なかなか難しいようですね。ただ、車社会のアメリカにおいて、北東部以外で初めて最高時速200km運転(一部区間ではありますが、、、)を行う都市間鉄道が実現したことの意義は非常に大きいかと思います。ブライトラインは、基本的にプレミアムサービスとしての位置付けが強いため運賃は高めの設定となっていますが、今のところ利用者数は順調に増加しているようです。これは、人口が密集する北東部以外においても都市間鉄道の需要があることが証明されたとも言えるため、今後の成長が非常に楽しみな鉄道会社かと思います。

      米国で日本企業が関与する可能性のある高速鉄道整備計画(構想)は、テキサスセントラル鉄道およびノースイーストマグレブのみとなってしまいましたが、今後は北西部や南東部でも高速鉄道整備計画が進む可能性があるため、今後もアメリカの鉄道プロジェクトの動向から目が離せないといったところです。

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